大学教授が書いた「ビートルズ都市論」
『ビートルズ都市論/福屋利信著(幻冬舎新書)』という本を読みました。
山口大学の教授(文学博士)が書いた本ですが、著者は、研究分野を聞かれると「ビートルズです。」と、きっぱり答えるそうです。
そうすると予想どおり、「楽しそう」とか「面白そう」などと肯定的でいて、実はそうでもない反応があるそうです。
「学術的軽さ」を言う人もあるし、「研究分野として認知されているのか」という反応をする人もいるようです。
著者は、「シェイクスピアの研究者が存在するのなら、ビートルズの研究者も存在しないとね。」という答えを必ずするそうです。
シェイクスピア演劇は、16~17世紀のイギリスで圧倒的な人気を誇った大衆演劇であり、ビートルズは20世紀で最も大衆の支持を得たロック・グループです。両者ともその全盛期は大衆娯楽でした。なので、同等の扱いを受けるのは当然のこと、というのが著者の考え方です。・・大賛成!!
現在、大英図書館には、マグナカルタ、シェイクスピアの原稿などと並んでビートルズのコーナーが設置され、直筆の歌詞や手紙が展示されています。
その姿勢はさすが大英帝国、立派です。
そして、この著書はビートルズ・ファンの私が初めて読むタイプの本でした。
都市とビートルズの関係性から論を展開していて、ビートルズの面々が誕生してからバンド活動を始めるまでのリヴァプール時代、そして下積みをしたドイツのハンブルク時代、メジャーデビューしてからのロンドンの時代、そして最後には、東洋の都市、東京でのコンサートについても、実際の楽曲の内容にまでは触れずに論理を展開していくのです。
読み進んでいくと、特にドイツ・ハンブルクでの経験がその後のビートルズ形成に最も影響を与えていたように感じました。
劣悪な環境での歓楽街でバンドとしての演奏力、パフォーマンスも身につけたわけですが、そこで出会った今までの“ロッカー”とは異なる「イグジス」と呼ばれる実存主義を根本思想とする人達との交流がビートルズ(特にジョンとポール)に大きな考え方の変化をもたらしたとのこと。
クラウス・フォアマン、アストリット・キルヒヘア、ユルゲン・フォルマーの三人です。
彼らのファッション、思想、ライフスタイルは、ビートルズに大きく影響を与え、その後大ヒットを飛ばした後も、どんどん変化し、複雑で哲学的な方向などへも向かった彼らに多大な影響を与えていたのだな、と、この本を読んで初めて感じたのです。
ビートルズにとって、エルビス、前述のハンブルクの三人、ボブ・ディランとの出会いは非常に大きなものでしたが、その出会った場所である都市の成り立ち、住んでいる人々などとの関係性から論理を展開していく様は「ははぁ」と関心するばかりでした。
今までそんな考え方をほとんどしていなかったもので。
リヴァプール、ロンドンなどの章も、「へぇ~」と驚きを持ちながら読みましたし、東京・武道館のコンサートを政治、経済、教育、外交、国家思想、世代間闘争等の要素を内包した社会事象として捉えているのは新鮮でした。
その警備体制の検証・分析によりビートルズ東京公演が何であったのかを解明しようとしています。
切り口が面白いのです。
ジョンが一曲目の「ロックンロール・ミュージック」を歌うところは書かれていても、楽曲の内容には触れず、観客や警察の行動などを通じて論じていきます。
ただ、その研究内容に関心してしまった本でした。
ある程度ビートルズのことを知っていて、都市とビートルズ(英国)という関係性からの論理展開に興味があれば、とても面白い本です。
ビートルズ・ファンには“目からうろこ”的な本です。
【Now Playing】 Something / The Beatles ( Rock )
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