男女だけではない人の生き方の本
『インターセックス/帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)著(集英社文庫)』を読みました。
書店の店頭ミステリー特集の棚にあって、ちらっと見た瞬間に、興味を持って読むことにしました。
主人公は、市立病院の「泌尿生殖器科」の女性医師。
①性染色体がXXにもXYにも属さない
②性染色体がXYなのに成長過程で外見は女性の身体になってしまう
③性染色体がXXなのに胎生期にある物質が過剰生産されて外見が男性化してしまう
④性染色体がXXだが、女性器も男性器もなく、外見が通常の女性
男・女という単純な区別しかほとんど知らなかった私には、初めて知る様々な人の「性」のあり方でした。
それらの人たちを生まれたときから成人し、さらに結婚する場合はその後のことまで診ていく医師のお話です。
しかも、その先見性と腕を見込まれて大病院に主人公は招聘されるのですが、やがてそこで行われている秘密と殺人事件に気付き、ストーリーはミステリーと化していきます。
さらに、そのミステリーとは別に、先に書いた通常の男女以外の性を具有する人たちの苦しみと主人公は真っ向から向き合い、そういった人たちが実は日本には100万人単位で存在していて声なき存在であることが読者である私にもわかり、驚きが広がりました。
そういう人たちのことを考えたことも無かったのですが、それはとても大きな、大事な問題であり、現に今苦しんでいる人たちがたくさんいるのだということがわかり、主人公が勤めることとなった大病院の院長が最初に力説していた「生まれた段階で手術して男女どちらかに整形してしまい、その後の人生を決めてあげる」ことが一番いい・・なんてことに、そうかもしれないなどと最初は思ってしまったのです。
ですが、それは本人があずかり知らぬ時に勝手に決められ、勝手に手術され、身体の一部が切り刻まれ、大病院では多くの医師・研修医の目にさらされ、たとえようのない苦しみにさいなまれるのです。
それを主人公はひとり一人と向き合って応援していきます。
ミステリーである本筋のストーリー(ほんとうは、そうではないかも)と、この「インターセックス」と呼称される様々な性を具有する人たちと主人公の医師の生き方・関わり方があまりにも衝撃的で真剣に読みました。
人は男としての生き方か、女としての生き方しかない・・・と、今まではなんとなく思っていたのですが、そんなことではない、ということがわかりました。
600頁にわたる大力作ですが、静かに、そして熱く読みました。
自分のことではなくとも、人としての生き方をあらためて考えさせられることになる作品でした。
【NowPlaying】 カレンズソング / ウエイン・グラッツ ( Instrumental Music )
« さすが“しょこたん”だと思った | トップページ | 石原加受子先生の本を読んでみたが・・・ »
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 古本の頁を繰っていて見つけるもの(2022.01.23)
- 中学生時代から今に至るまで、「レコード盤を貸してくれ」「CDを貸してくれ」「本を貸してくれ」と言われる話。(2021.12.21)
- 「日本人も知らなかったニッポン/桐谷エリザベス」を読みました。(2021.10.03)
- 「小林信彦 萩本欽一 ふたりの笑タイム -名喜劇人たちの横顔・素顔・舞台裏-」を読みました。(2021.09.28)
- 坪内祐三の「最後の人声天語」を読んだ。(2021.09.25)
コメント