「夜のだれかの玩具箱」を読みました
『夜のだれかの玩具箱/あさのあつこ著(文春文庫)』を読みました。
摩訶不思議なストーリーが短編で時代を超えて収録されています。
なんでもない温厚なふつうのお父さんの秘められた40年前の過去がその死の間際に娘の前にあらわれてきて、男と女の出会いというものは、どんな平凡な人にも数々の複雑な思いや出来事があるものだ・・・としみじみしてしまう一編。
これだけで胸一杯、お腹一杯になるような充実した作品であるのに、さらに同じくらいの“胸一杯”が5編納められています。
「うちの猫は鼠を捕りません」という看板が掲げられているBARに入ってみると、そこには額から血を流している女性客がいて、自分達夫婦の底なしの悩みや苦しみが目の前で再現されていくという・・摩訶不思議な話もありました。
大人のお伽噺のような展開に目を離せない状態になりました。
この作者は読者を引きつけるのがとてもうまい!
時代が突然江戸時代の作品になり、履物屋の腕の良い職人の最愛の妻が忽然と消えて、探しているうちにとんでもない結末を見て読者も“唖然”というものもありました。
次から次へと奇想天外なストーリーが繰り広げられ、完全に本の中に没入してしまいました。
とにかく、飽きさせることなく面白いお話ばかり。
小学生時代のお花見の作文から、自分の心の傷に辿り着き、結婚しようとする恋人とその場所に何十年振りに戻ると、回想していた過去の友達がそこで花見をしていて、心に掛けられていた閂(かんぬき)のようなものが外れるというお話も不思議な感覚と共に静かな感動を覚えました。
もうひとつの時代物、「蛍女」という作品では、強奪、殺人、放火、陵辱という悪事の限りを尽くしていた男が僧侶となり、山に入るが道に迷ってしまい、灯りを目指して辿り着いたその家には老婆がいて・・・という落語にもよく聞くような話ですが、これも大人のお伽噺+ホラーといった感じでゾクゾクしながら読んでしまいました。
文体は軽くて読みやすいが、でも心には“ズシン”とくる、いい短編集のご紹介でした。
【NowPlaying】 Hey Jude / The Beatles ( Rock )
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