絲山(いとやま)秋子さんの小説はしみてくる・・
『ばかもの/絲山秋子著(新潮文庫)』を読みました。
これまたブックオフで86円でした(^^;)
200頁ほどの割と短い小説でしたが、心にじわじわと沁みてきた内容は750頁分くらいの内容がありました。
主人公は、お気楽気ままな大学生活を過ごし、しかも年上のぶっきらぼうで怖い女性との奴隷的愛欲生活まで送っている男。
そして、その相手の女性も主人公と言ってよいかもしれません。
やがて女性は簡単に主人公の男性を捨て(最後は「結婚するからじゃあね」という感じで、しかも男の下半身むき出しのまま公園の木に縛り付けて逃げてしまった・・( ̄O ̄;))結婚生活に入ります。
男性の方は大学を卒業したものの、そして新しい彼女を見つけたものの、どんどん酒に溺れ、これほどひどい状況があるか、というくらに荒んだ生活を送り、会社を解雇され、ますますどん底に落ちて行きます。
友達からも最後通告的な言い方をされ、もう救われないままアルコール依存のまま死んでしまいそうなところまで行ってしまいます。
でも、もう一人の主人公である最初付き合っていた女性の母親がやっている店に行き、酒を飲もうとして、ガツンと言われた言葉に、自ら病院に入り、人間として最低のところまででもせめて戻ろうとし始めます。
結婚してしまった元彼女は、こともあろうに夫の職場で仕事を手伝っている最中に夫の不注意で夫の操作するフォークリフトに挟まれ、片手を失い、やがて離婚。
従姉を頼り、都会から離れ、一人暮らしを始めます。
その離婚した女性の母親は、主人公の男性に喝を入れてくれただけでなく、一人暮らしを始めた自分の娘に会いに行けと言います。
全てを失った主人公の男と女が絶望の果てに再会します。
それまでが怠惰、堕落、破滅、退廃、などという言葉が似合うような話の展開であったのが、一転して歳月を経た男女の静かで、穏やかで心の糸が少しずつ繋がっていくような、そんな時間がゆっくりと流れるような展開になりました。
小説的に誇張された表現や展開はあるかもしれませんが、人として生まれて来たからには誰もが経験せざるを得ない人生の厳しさ、つらさ、ささやかな楽しみなどが巧みに描かれ、そして友や、周囲の人達との関わりなども“じわっ”と書かれていて、読んでいる間中胸が締め付けられ、哀しくなったりしました。
読む人の年代によって、異なる味わい方のできる小説だと感じました。
誰にでも勧められるものではありませんでしたが、楽しい時間なのにふと秋風のような寂しさを感じるような、そんなあなたにはお勧めいたしましょう・・<(_ _)>
【Now Playing】 Happy Endings / The Patriotic Sunday ( Organic SSW )
« 月組の「三本立て」は・・'(*゚▽゚*)' | トップページ | 久しぶりに読んだ「幸田真音」さんの小説 »
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 古本の頁を繰っていて見つけるもの(2022.01.23)
- 中学生時代から今に至るまで、「レコード盤を貸してくれ」「CDを貸してくれ」「本を貸してくれ」と言われる話。(2021.12.21)
- 「日本人も知らなかったニッポン/桐谷エリザベス」を読みました。(2021.10.03)
- 「小林信彦 萩本欽一 ふたりの笑タイム -名喜劇人たちの横顔・素顔・舞台裏-」を読みました。(2021.09.28)
- 坪内祐三の「最後の人声天語」を読んだ。(2021.09.25)
「心と体」カテゴリの記事
- 「眠れぬ夜のラジオ深夜便/宇田川清江」を読みました。(2023.11.30)
- 加藤諦三先生の『どうしても「許せない」人』を読みました。(2023.11.27)
- 伊集院静さんの「あなたに似たゴルファーたち」を読みました。・・この文を書き終えたときに伊集院さんの訃報が入ってきました・・。(2023.11.24)
- 下重暁子さんの「自分勝手で生きなさい」を読みました。(2023.11.12)
- 「ぼんやりの時間/辰濃和男」を読みました。(2023.10.27)
「恋愛」カテゴリの記事
- 「抱擁/北方謙三」を読みました。(2023.10.13)
- 嵐山光三郎さんの「文人悪妻」を読みました。(2023.09.26)
- 吉行淳之介と開高健の対談形式本「街に顔があった頃」を読みました。(2023.09.05)
- 映画「青いカフタンの仕立て屋」を見ました。(2023.06.20)
- 「アガワ流 生きるピント」を読みました。(2023.06.18)
コメント