内田百閒先生の「御馳走帖」を読んだ
『御馳走帖/内田百閒著(中公文庫)』を読みました。
明治二十二年・岡山生まれ「阿房列車」「冥土」などの小説や、当時のユーモア溢れる随筆「百鬼園日記帖」「新方丈記」などの著作があります。昭和四十六年、八十二歳没。
この「御馳走帖」は、元は昭和二十一年に、ザラ紙のハリガネ綴で出版されたものなのだそうです。
けっこう自分勝手で、今の私達から見れば横暴で、気分屋、手に負えない親爺(ジジイ)ですが、その文章はその人柄がにじみ出ているというか、あふれ出ている状態で、それがこの偏屈な人のキャラクターを際立たせて、本人が最初は真面目に書き出しているかのような文も、やがてユーモアに包まれ、読んでいて厭な感じが無いのです。
かかりつけの医師から止められているのに、勝手に理由をつけて酒を飲み、家族から医者に行けと言われても、臆病風に吹かれてなかなか出掛けようとしません。
家族が医者に行って話をすると、お医者さんが乗り込んで来て、家族から先生との約束なんかまるで守っていないと言いつけられ、憤慨するも、せっかく暮れになって訪ねて来てくれたのだと、「禁酒」を奨めている先生と一杯やる席を用意し始めるなど・・話題に事欠かない百閒先生です。
牛乳が珍しい時代に、配達されてきた牛乳の容れ物(大きな缶)と中に入っている柄杓のようなものの描写などもあり、その他どじょう鍋を食べに行った話、牛肉や馬肉を友とつつく話、ふぐを食べたときの周囲が毒を恐れる様子なども書かれていて、時代を感じながら、作っているときの様子や味、ほんとうに本人が感じているそのときの気持ちなども百閒先生ならではの文体で書かれていて、これは読後も時々めくって見たくなる本であると感じました。
朝はビスケットと牛乳のみ、昼は毎日12時丁度に届けさせる蕎麦、そして夜にさまざまな当時でも高価だったり、珍しいものを食する先生。
煙草の量も、酒の量もこの本に書かれていますが、ただごとではない量です。
でも、八十二歳の生涯を全うされたのです。
こういう気ままで、我儘で、マイペースなのに、ちょっと寂しがり屋の愛すべき百閒先生の文章は、今読んでも飽きることがありません。
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