「タカラジェンヌの別れの言葉」を読んで【4/4】
『タカラジェンヌ別れの言葉~退団挨拶から振り返る宝塚人生~/阿部彩子著(東京堂出版)』から受けた印象と共に私の退団されたタカラジェンヌへの想いを綴る第四弾、今回で一応最後にしたいと思います(^-^)
今回は宙組トップコンビで同時退団された、大空祐飛(おおぞら・ゆうひ)さんと、野々すみ花(のの・すみか)さんのお二人です。
二人はトップコンビとして、花組から“落下傘”的に宙組にやって来ました。
この本にも書いてあるのですが、“超”遅咲きの18年目にしてトップスターになった大空さんについてきた相手娘役・野々さんは、宙組の組長・寿つかさ(ことぶき・つかさ)さんによると、「お兄ちゃんについてきた、弟か妹みたいだった」と、あまりにも頼りない様子に驚き、演出家の植田景子先生も「この子、大丈夫?!」と、たいそう心配したようです。
しかし、著者も書かれているように、野々さんは舞台を降りた時やオフでは、“フニャフニャ”ですが、いったん舞台に立ったとたんに役が乗り移ったように顔つきが変わる“憑依系”の娘役でした。
“憑依”した野々さんの演技は誰もが舌を巻き、観客の心を鷲づかみにして、魂を揺すぶられるほどの見事な演技を見せます。
月組から花組に移動し、下級生トップのもとで二番手スターになり、「もうトップの目は無いだろう」と誰もが思っていた大空さんは、野々さんとコンビを組んだ「銀ちゃんの恋」で一気に“開花”します。
この本にも書かれていますが、野々さんの憑依系の芝居にリードされるが如くになった大空さん、初めて役をリアルに存在させられる不思議な感覚を得たようなのです。
「この子となら面白いことができる」と感じた大空さんは、野々さんを連れてトップコンビとして宙組にやって来て、・・その後の大空さんのトップスターとしての舞台、演目は、皆さんすでにご存知のとおり退団するまでの作品全てが名作・代表作となる、素晴らしい活躍を見せてくれました。
おまけに、花組で大成功した「銀ちゃんの恋」をもう一度宙組で再現してくれ、私もそれを見たのですが、銀ちゃんが大空さんなのか、大空さんが銀ちゃんなのか錯覚してしまうくらいの役作りに、ただ・ただ感動しました。
もちろん、それには野々さんの“女優”としての素晴らしさがあってのことでした。
大空さんは、演出家やスタッフ、そして組子の皆から深く愛されていることが見ているこちらにもはっきりと感じられ、精緻な舞台を自らプロデュースしている希有なトップスターでした。
そして、寸分の隙もない完成されたステージを繰り広げる中、野々さんとは“ラブラブ”で、観客のこちらが恥ずかしくなるくらいの“相思相愛”を見せつけ、舞台を降りても二人は互いを信頼し切っていました。
「誰がために鐘はなる」では、二人でディスカッションを重ね、野々さんは、ファシストに髪を切られたマリアを演じるために、娘役で一番たいせつな髪をバッサリと短く切って現われました。
絶対の信頼関係をもつ二人は互いを信じ、ステージ上では大先輩の大空さんも、野々さんのひらめきによる演技を尊重して、大空さんがそれに乗るような場面も多々あったようです。ようするに野々さんがリードする場面もあったということです。
オフでは、野々さんは二歩も三歩も下がって大空さんのあとをついていくという、見事なコンビネーションでした。
私が一番好きだった「クラシコイタリアーノ」のラストでは、二人が静かな海辺で腰掛けている場面で、ちょっと距離をおいて座っていたのですが、野々さんが、“こぶし一つ分”のちょっとだけ大空さんに近づいて幸せそうな仕草をするという演出がありました。
そこまでのストーリーでは、まだ二人は恋をする、というところまではいっていなかったのですが、これまでの演目での燃え上がるような恋愛模様でなく、これから二人が恋をするのかも・・という“ニクい”演技に逆にやられてしまいました。
あんな温かくて、キュンとする恋のシーン、見たことがありませんでした。
長いこと宝塚を見て来ましたが、こんなに素敵なトップコンビは、なかなかいなかったと思います。
この本では、著者が「大空さんが宝塚歌劇随一の遅咲きだったのは、実は13期も遅れて入団してくる野々すみ花という最高の娘役を待つためだったのだ」(T_T)と結んでいました。・・異議なしっ!!です(゚ー゚*)。oO
【Now Playing】 スウィート・キャロライン / ニール・ダイアモンド ( Pops )
« 「タカラジェンヌの別れの言葉」を読んで【3/4】 | トップページ | 秋を感じると・・妙に懐かしくなって »
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 古本の頁を繰っていて見つけるもの(2022.01.23)
- 中学生時代から今に至るまで、「レコード盤を貸してくれ」「CDを貸してくれ」「本を貸してくれ」と言われる話。(2021.12.21)
- 「日本人も知らなかったニッポン/桐谷エリザベス」を読みました。(2021.10.03)
- 「小林信彦 萩本欽一 ふたりの笑タイム -名喜劇人たちの横顔・素顔・舞台裏-」を読みました。(2021.09.28)
- 坪内祐三の「最後の人声天語」を読んだ。(2021.09.25)
「宝塚」カテゴリの記事
- 宝塚歌劇を長いこと見てきたという人に会った。(2024.08.14)
- 俳句を詠んでみる_0138《宝塚俳句[ミュージカル Me & My Girl に登場した弁護士役 未沙のえる さんの名演に捧げる]》【 お屋敷の弁護士 胸に薔薇ひとつ 】(2024.06.21)
- 俳句を詠んでみる_0132《宝塚俳句[※個人的な思いで創った句です。宝塚歌劇団、元花組娘役 青柳有紀さんに捧げる]》【 緑さす とどけ ナーヴの ボーイソプラノ 】(2024.06.15)
- 俳句を詠んでみる_0126《宝塚俳句[ミュージカル、「エリザベート」で宝塚歌劇に新たな一頁を加えた一路真輝さんを詠む]》【 一路真輝 蝦蛄葉仙人掌(しゃこばさぼてん) 黄泉(よみ)の国 】(2024.06.09)
- 俳句を詠んでみる_0120《宝塚俳句》【 大晦日(おおみそか) 幻のアーニーパイル 】(2024.06.03)
おうちゃんさん、コメントありがとうございます!
この本は個々のタカラジェンヌさんへの著者の思いがうまく綴られていて、共感するところがたくさんありました。
スターさんのことを思い出しながら、読み返しちゃいますよねぇ(^-^)
投稿: はっP | 2014/09/07 09:28
私もすぐに購入いたしました(^-^)/
おっしゃるとうりの良い内容に、何度も読み直しています
ここに書かれているように、宙組の銀ちゃんの恋で、大空祐飛さんと、野乃すみ花さんを認識したので、何度も頷きながら、拝見しました
素敵な本をご紹介いただきまして、ありがとうございました
投稿: おうちゃん | 2014/09/06 21:31
阿部彩子様
このたびはコメントをいただいて、とてもうれしい出来事でした。
特に今回のご著書「タカラジェンヌ別れの言葉」は、取り上げられたそれぞれのタカラジェンヌに対する“温かい眼差し”に読者である私はやさしくホンワカした気持ちになりました。
それがとても良かったのです(゚ー゚*)。oO
また、他の宝塚関係本には時にジェンヌさんに対して“チクッ”と皮肉を言ったり、文中に愛称ばかり使っていて、馴れない“初級~中級の下”くらいのファンには誰が誰やらわからない、ということがあるのですが、ご著書は、そういう「内輪ウケ」的な部分がないというのも、うれしいことでした。
ぜひ、また宝塚関連本を書いていただけることを願っております。
投稿: はっP | 2014/09/03 22:49
快諾いただき、ありがとうございます。
また、涙ぐんでいただいているなんて・・・そのお言葉に涙ぐんでしまいます。。。
宝塚本としては1冊目ですが、また何か書けるようにがんばります!
ではではo(_ _)oペコッ
投稿: 彩子 | 2014/09/02 21:59
阿部彩子様、著者ご本人からコメントをいただきまして、驚くと同時にうれしさで、宙に10センチくらい浮いてしまいました。
しかも私の拙い文をプリントアウトしていただいただなんて、申し訳ございません…σ(^_^;)、穴があったら入りたい・・。
書店でこのご著書を見つけ、立ち読みし始めたら、どぉ~んと入り込んでしまい、すぐさま購入いたしました。
“宝塚愛”あふれる素晴らしい本でした。何度も読み返しては涙ぐんだりしています(^^;)
どうぞ、ブログ、facebook等への掲載、ご紹介なさってください。
そして、この「良き宝塚本」をできるだけ多くの方に読んでいただければと思います。
また、今後の宝塚関係のご本、期待しております。
このたびはコメントありがとうございました。
投稿: はっP | 2014/09/02 21:56
こんにちは。
私の著書をこんなに素敵な形で取り上げてくださり、ありがとうございます。
うれしくてプリントアウトしてしまいました(笑)
もしよろしかったら、ブログやFacebookなどでこちらのブログをご紹介させてください。
よろしくお願いします。
投稿: 彩子 | 2014/09/02 21:28