村松友視さんが書いた「帝国ホテルの不思議」
『帝国ホテルの不思議/村松友視著(文春文庫)』を読みました。
村松さんの著書には、すでに京都の老舗旅館「俵屋」をテーマにした『俵屋の不思議』があるとのことですが、たまたま酒場で知り合うことになった、当時の帝国ホテルの宿泊部長さんと懇意になり、そしてその宿泊部長さんが百二十周年を迎える時期に代表取締役社長に!
「俵屋の不思議」の存在を知っていたその社長に「帝国ホテルの不思議」を書き下ろしてほしいという依頼を受けることになります。
著者の村松さんは、帝国ホテル内のバーなどには時折立ち寄っていたようですが、九百以上の客室と、レストラン、パーが十以上、宴会場が三十近くあるという世界で類を見ない規模のホテルについて様々な領域、部署の方達にインタビューしながら、今までバーくらいしか知らなかった帝国ホテルの奥深いところまで覗くことになり、その“不思議な世界”に遭遇するというものでした。
「客室課」のマネージャーからは、部屋のセッティング時には「バスタブに体を横たえると、トイレの内側の汚れが見える」・・などというお客様が実際にその部屋にいるときに感じる視点から部屋を見ていることなどに驚きます。
1,000人ものゲストの顔、クルマを記憶しているドアマンや、そしてそのドアマンと連携してお客様を案内するベルマン、フロント、さらに何でもやるロビーマネージャー、スターターと呼ばれるエレベーターを最適な人数と、お客様によってはプライバシー等を感じ取って個別にエレベーターに乗せていく担当者、あらゆる出来事、アクシデントに責任を持って対応するデューティーマネージャーなど、それぞれの人にインタビューしていくと、その人のホテルマンとしての生き方が素敵で、しかも時には失敗もする人間味も含めて、とても魅力的な“人”の紹介にもなっていました。
その人の紹介がまた、今度は逆に、帝国ホテルの魅力につながっているように思いました。
巨大ホテルでのルームサービス四十四名の戦争のような緊迫感漂う職場の様子も読んでいてこちらがドキドキしてしまいました(^^;)
お客様が「7時15分に朝食を持ってきて」と言ったら、それは7時にしようか、でもそれではいろいろと支度に時間が掛かるし、ギリギリピンポイントでその時間を決めているので、まさに要望のあった7時15分ジャストの時刻にドアをノックするようにしている・・などと( ̄O ̄;)・・その仕事への取り組み姿勢にはただ驚くばかり。
老舗であり、外国人宿泊客が創業当初から多い帝国ホテル、初期にはフランスパンもうまく焼けず、今回インタビューを受けている方の苦労話などを読んでいるだけで、その歴史あるパンづくりにも感心しました。
ブッチャーという担当部署の肉の検品の様子なども厳しく、納入業者も必死!、だから美味しい肉が食べられるのだと思いましたし、ジビエ料理などについては、本場での熟成加減よりも、日本人向けにクセの出ないくらいのところにしているなどというエピソードもありました。
ホテルでの結婚式も帝国ホテルが元祖。結婚式の出前をやって流行をつくった本人を呼んで、その出前をホテルで実現させたりもしていますし、神主が足らなくて、その出前の業者の方が、大学に通い、自ら神主になってしまうというくだりもありました(#^.^#)
結婚式の打ち合わせから当日までのそれぞれの担当者の苦労話も面白い。
また、シューシャインという靴磨きの人までもホテル内に呼んで地下にスペースがあり、その方のお話も靴の皮の状態のことをうれしそうに語られて、これがまた知識豊富で楽しい!d(^_^o)
電話オペレーター、百年の伝統を誇るランドリーの染み抜き技術も含めた素晴らしさ、・・宴会時に洋服を汚してしまった方がお帰りになるときには何事も無かったように洋服を渡している情景などにも心なごみました。
そして、ラスト、施設・情報システム担当の方の常人ではないような天才ぶりには舌を巻きました。
ここはクライマックスなのであまり紹介してしまうとこの本に対して営業妨害になるためちょっとだけご紹介しますが、とにかく電話交換機やほとんどの施設・備品などを自前で作り、それらが日本で最初のものになり、ああ、あれも帝国ホテルが最初なのか、などと驚くのでありました。
ホテルでの結婚式というものが帝国ホテルが先駆けだと書きましたが、バイキングも最初、もちろんネーミングも帝国ホテルが付けたものですし、“柿の種”をバーで提供し、それが全国に流布したというのもこの本で初めて知りました。
ここに書いたことは、この本の中身の氷山の一角です。
とにかく、エピソードと、担当の方の幾多のホテルマン人生の話題が詰まったこの本、楽しく読めました(゚ー゚*)。oO
日頃、このホテルのご近所の劇場(^^;)にはよく足を運ぶのですが、ホテル内にはなかなか足を踏み入れておりませんでした。
今度は、この本を読んだ目であらためて見てみようと思います。
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