野坂昭如さんの「シャボン玉日本」を読み終えた
この本も、船橋のときわ書房で買い求めたものでした。
『シャボン玉日本/野坂昭如著(毎日新聞社)』。
野坂さんの文が気になりだしたのは、毎週土曜日のラジオ番組、「永六輔その新世界」に野坂さんが必ず一通の手紙を寄せられ、それが読まれるのが楽しみになってからです。
野坂昭如さんは脳梗塞で倒れ、現在もその身は不自由ではありますが、野坂さんの文は毎週冴え渡ります。
この本では、自らの少年時代の空襲で、一瞬のうちに家が無くなり、そこにはさっきまでいた義父がいたのだが・・。
家族を失い、残る幼い妹と少年の野坂さんは親戚を頼り、地獄のような道程を経てそこにたどり着くも、やがて邪険にされて・・妹も亡くなり天涯孤独となりますが、実父が現われ、またそれからの生活の様子や、祖母からの躾などについても書かれています。
その躾や、日本人が古来から持ち合わせていた心、四季、風俗、文化、その他今の日本人がとっくのとうに忘れてしまった事象を丁寧に書いて、そこにはかつてのような“怒り”などは露わにせず、淡々とした文体で書かれているのです。
そこが、最近のラジオでの野坂さんの手紙の朗読同様に、私の心に染み入りました。
たとえば、田んぼは自然の産物、列島の環境を守ってもきた。傾斜地の棚田が辺りの景色を育て、入り組んだ狭い田んぼの水の保全にも役だってきたのだ・・。
地域の特性を生かし、地方と都市を結ぶ役割も果たしてきたと。
先祖代々の土地を死に物狂いで守り育ててきたが、大手資本となれば儲からない田んぼはあっさり棄てられ、TPPに参加しなければ日本は取り残されてしまうというが・・・、成長して経済を潤すことが必要だなどというが・・・。
野坂さんの気持ちは、私と同じような気がする。
日本の自然はやさしいといっても、地震、台風、豪雨、豪雪に脅かされている。豪雨で農作物が腐ったり、収穫目前の実りも台風にやられたり、洪水で家が流されることもある。大地の震えに脅えながらそれでも日本人はこの天変地異と付き合ってきた。自然に対し畏れを抱きつつ、苦難でもある雪や雨が、やがて水の恵みとなって、列島の宝であることを判っていた・・・・・。
自然現象がまずあって、そこに人間が手を加え暮らしている。現在はそれを忘れがち。と野坂さんは語っています。
そう、何か人として、日本人として大切なものが忘れ去られ、置き去りにされているような気が私もします。
そういうことがこの本では、270頁にも渡って淡々と書かれているのです。
いじめや、ストーカー、さらに野坂さんは実際にはどういうものかわからないが、と前置きしていますが、現在のSNSを利用している若者の世界についても警鐘を鳴らしている、というか本題に入って、もっと人に必要なものはこういうものではないか、というところまで書かれています。
とても重いが、心の中に灯りがともるような、力強ささえ感じる本でした。
今週末も野坂さんのTBSの番組への手紙が楽しみです。
あのコーナーには、人としての大切なものがいつも描き出されているのです。
【Now Playing】 What The World Needs Now Is Love / David Hazeltine Trio ( Jazz )
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