「うらおもて人生録」を読んだ
『うらおもて人生録/色川武大著(新潮文庫)』を読みました。
著者の色川武大さんと言えば“放浪”と“無頼”の人、そして麻雀小説家としての別名「阿佐田哲也」としても有名です。
この「うらおもて人生録」は、優等生がひた走る本線コースではなく、山有り谷有りの人生の中で、道に迷い、幾度かの修羅場もくぐりながら何とか生きて行く人生の裏道的セオリーを説いた本・・と言えばよいのか・・そんなふうになっていました。
学校にも、戦時下での世間にも見放され、自らアウトローになり、ギャンブルのプロの世界で生きる道を見つけたときの若い頃の話が元となり、この裏道的セオリーは成り立っています。
愚かでも、不格好でも、人間として生きて行く、それはこんな魂の技術で乗り越えて来たのだ、と静かに語る色川さんの文は鈍く光っています。
自分に運が回って来たと思っても、全体的な運の量は決まっていると冷静に判断し、次にはその分マイナス運が巡ってくることを承知した上で、最終的には「9勝6敗」になるように持っていく・・これが難しいが、ギャンブルのプロとして生きる道であり、裏道を歩く人の“しぶとい”生き方であるというわけです。
この本にも書かれているのですが、いきなり13勝してしまっても、その後に2敗し、次の局面では13連敗も有りうる、そう考えねば9勝6敗のなんとか生きて行くやり方は人生全般を見渡して出来ないのです。
理屈ではわかりそうですが、実際には、連勝につぐ連勝を遂げてしまえば有頂天になり、大きな損失を被りそうです。そんな人はたくさんいるのではないでしょうか、私の親類縁者にもそんな人が何人かおりました。
一時の飛ぶ鳥を落とす勢いはどこへやら、そしていつの間にかどこかへいなくなってしまいました。
結局、負け越したり、何とか勝ち越したりの繰り返しで、やっと生きている者が今でも何とか人生やり繰りしつつ生きながらえているのです。
そんな人生模様を色川さん独特の筆致で私達に見せてくれているのがこの著書。
色川さんは、多くの役者さんや、ミュージシャンなどが“ぶだいさん”などと呼び、「いっぱい遊んでもらった」と回想し、慕われた人だったようです。
それは、上記のような生き方を得意がるでもなく、淡々と、そして人生の浪の乗り方を自ら示しながら生きていたその姿が周囲の人々を安心させ、いつの間にか人が集まってきたのではないか、などと推察するのです。
色川武大さんの渋い、人生への技術を説いた本、面白かったです。
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