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2015/08/25

現代の心中物「雉猫心中」を読んだ

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『雉猫心中(きじねこしんじゅう)/井上荒野(いのうえ・あれの)著(新潮文庫)』を読みました。
同じ住宅街に住む妻子のある男と、夫のいる女が、互いの家への雉猫(野良)の訪問をきっかけに知り合い、急速に接近し貪り合うような仲になって、無軌道な状態のまま心も体も、互いに夫婦の行方もさまよう・・というような話です。

物語の展開は現代の心中物と言ってもいいかもしれない、あとさきを考えないような、互いの体を貪り尽くすのみの、結論の無い、結末の無い、救いようのない話です。

しかも読んでいると、それぞれが夫婦の営みを行いつつ、しかしその同日に何度も互いを求めて密かに交わっている・・。

男には、美人の妻と中学生の娘がいるのですが、家庭の実体は冷え切っている。しかも左前になった古本屋をやっていた主人公の男はネットでの販売に活路を見いだそうとするも、騙されて失敗し、そこからは底なしの沼に沈んでいくようなことになり、同業者からも白い目で見られ、追放状態になる。
どんどん堕ちていくのに、さらに地元有力者一族の悪い子供らにも罠にはめられ・・もういけません。

もうひとりの主人公の女も、夫の中学教師とは「愛」のようなものは全く感じられない生活を日々過しているのに、そんな気持ちを、おくびにも出さず波風のない生活を演じている。
さらにその夫が夫婦の営みをするときには異常な感じのマニアックさを発揮し、それをまたパソコンの中に記録し、保存している。

驚くべきことに、読んで行くと、主人公の男女がかなりの回数貪るように交わっているのに、その描写や、それぞれ男女の気持ちなどの描写もほとんど無いのです。
それぞれの容貌などの描写も、特に女性の方はまったくわからないくらいの薄い表現がなされている。ただ読者のこちらは想像するのみです。
そんな書きっぷりなのに、無間地獄のような男女の様子が読んでいるこちらには伝わってくるのです。

男と女、互いが一人になったときの様子からそれらを想像し、二人の様子がわかるという書き方です。
男女とも行き着くところのない寂しさや無常感を身に纏い、そこでまた互いを求めて住宅街を歩き、周囲に見つからぬように相手の家にたどり着き、窓から相手が見えないか探す・・。

心中物というと、「純愛」的な文学表現がされているのかと思いきや、男女は互いの心を測りかね、自分の満足を優先し、単に快楽のみを追求しているかのような部分もあって、むしろそれが本当の男女の姿ではないかとさえ感じました。
人って、そういう勝手なものだ、と思うと同時に、「これは自分の姿とオーバーラップする」と、暗澹たる気分にもなったのでした。

この二人、いったいどうなってしまうのだろう、と最後まで一気に読んでしまいましたが、決着のつかない不安だけが心に残り、人が男として、女として生きて行くことがどんなに虚しいものなのか・・解決のつかない心持ちのまま、今茫然としているのです。


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コメント

ymamaさん、コメントありがとうございます。
コメントしていただいたとおりなんですよね。
この本のケースは男女というつながりの中で、どこまで自分をさらけ出すのか、隠すのか、相手をどこまで見つめることができるのか、そしてどこまで許せるのか、不信感まで持ってしまうのか・・・。
自分がある程度の年齢になったからこそわかる境地だと思います。
そういうことを、もう少し、深く、しみじみと感じ、わかり始めるのはもうあと10年くらいかかるでしょうか・・ (・_・;
こういうことに気付くこと自体が本を読む醍醐味となっている昨今です。

こんばんは
いつもたくさん本を読まれているのですね。
私も読みたい本はたくさんあるのですが、なかなか・・。

猫が心中するのかなと一瞬思ったりしました。笑。
心を開示し、自分の気持ちをわかりやすく伝えることと、それを恐れる自分を見つめる心と、また、相手が開示したことを受け留めることを躊躇しない勇気と。一言でいうと、素直になるということなのでしょうけれど、それがどれほど難しいと感じているかということですね。
相手のことを考えることも大切ですが、自分のことを考え、自分のことを大切にするからこそ、伝える勇気もときには必要で、それがあることは、ひいては相手を大切にすることであろうと思うのですが・・・。
逃避しても、何も変わらないことは、内心分かっているのでしょうが、それが人間らしいともいえますし、そうでないともいえますし。本の内容より、はっPさんのコメントに考えさせられました。

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