児玉清さんのラストメッセージ・エッセイを読みました
『人生とは勇気/児玉清著(集英社文庫)』を読みました。
児玉さんは2011年に亡くなられているので、あれからもう4年も経ったのですね。
テレビなどで拝見していた児玉さんの印象は紳士的で、おだやかで、理知的な人、そんな印象でした。
で、この本を読むと、児玉さんは小さいときから真面目で一直線で、曲がったことは嫌い。そのためにあらぬ噂を立てられたりして人生の中で何度も辛い時期を過されていたことがわかりました。
子供の頃には戦中の集団疎開で四万に行き、そこでいじめの対象となってしまい、月に祈りを込めて死を乗り越え、母が年に一回の訪問に来たときにもそれを隠し、笑顔でいたことなどが書かれていました。読んでいて、我が事のように胸が締め付けられる思いでした。
俳優になってからも、少し芽が出て来たところで、妬みからか、根も葉もない噂を立てられ、専属契約されていたものの、誰からも声を掛けられない、大部屋の辛い時期を長く過されていたことを知りました。
亡くなった母が見守ってくれているという心の支え、そして俳優になれと、謎の予言をしてくれた人物、大学でよきアドバイスをしてくれたS先生らに人生の転機に励まされて、たいへんな苦労をしながらもご本人の性格どおり真っ直ぐに生きてこられた様子がわかりました。
でも、読んでいて感じたことは人生に不器用な人だったのだな、ということ。そして、それ故に児玉さんの実直さが新たな世界での仕事との出会いを生んだのだな、と思いました。
50代になられたときに、何故か落ち込むようになり、それが男性の更年期だと言ってくれる人がいて、さらに50代からあらたな勉強をせよとアドバイスしてくれる人がいて、児玉さんは学生時代に完全にものに出来なかったドイツ語を再度勉強し始め、さらに翻訳本も読み進むうちに底を尽き、いよいよ新刊を洋書でそのまま読むことになり、その読書にかける姿が知られるところとなり、書評や、本に関する番組にも携わるようになり、児玉さんの人生の巡り合わせに読んでいるこちらもドラマを感じてしまいました。
そして、60代には娘さんとの悲しい別れも経験され、その後の落ち込みようといったらないわけですが、匿名の手紙に励まされたエピソードも書かれていて、ここでも人生の機微を感じました。
巻末に「児玉さんへ -解説にかえて」と題して「週刊ブックレビュー」でサブ司会として一緒に仕事をされていた中江有里さんの文が掲載されていました。
父のようでもあり、芸能界の先輩でもある児玉さんへの思い、そして中江さんまでもが心配するほどのファンの人に囲まれたときの児玉さんの無防備ともいえる真摯な対応についても書かれていました。
いつの間にかその優しさと責任感に甘えて児玉さんを頼っている周囲の方達のことにもふれていましたが、それこそ児玉さんゆえのエピソードだと思いました。
こらえつつ読んできたのですが、この「児玉さんへ」と手紙形式で書かれた中江さんの文を読んで、ついに私も泣いてしまいました。
児玉さんの心の内が読みやすい形で表現されていたこの本、人生の考え方への参考となりました。
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