「木暮荘物語」面白いだけではなかった
『木暮荘物語/三浦しをん著(祥伝社文庫)』を読みました。
木暮荘という築ウン十年の古(ぼろ)アパートの住人とその周辺の人物で繰り広げる人間物語ですが、ただの面白可笑しいお話では終わりません。
三年前に別れた彼が突然女性の部屋に現われ、しかも新しい彼は布団で裸状態、という話から始まりました。
金もないし、泊るところもないから今晩泊らせろと迫る元カレ・・。
仕方なく新しい彼が金を渡し、出て行ったかと思いきや、その金で料理の材料を買ってきて三人分のご飯を作り、仲良く?!食べる不思議な三人。
あろうことか、その後川の字になって三人で寝る( ̄O ̄;)という、摩訶不思議というか、笑ってしまうお話があったかと思うと・・。
70歳を過ぎて真剣に「セックスがしたい」と思い詰める木暮荘の大家のじいさんの話。
次々に男を引っ張り込む女子大生。そして、天井裏からそれをのぞく男の住人。さらにその“のぞき”に気づいたにもかかわらず、天井の節穴に紙を貼って、のぞいていい時には紙を剥がしてのぞかせてやるその女子大生の話。
元カレと今カレとで川の字に寝る女性が務める花屋さんで喫茶店もやっているお店のオーナーの浮気の話。浮気をしている人間の淹れた珈琲は泥の味がすると言って去って行く女。
親にも内緒で赤ちゃんを産んでしまった大学の友達に赤ちゃんを預けられ、右往左往しつつも赤ちゃんに深い愛情も持ってしまう“部屋をのぞかれた女子大生”・・。木暮荘関係の皆で赤ちゃんの面倒をみたりします'(*゚▽゚*)'
その他にも怪しい女性が現われたりして、物語は深いところに沈んでいったりもします。
木暮荘そのものの、ひなびてほんわかした雰囲気の中で物語りは枝葉に別れて進行するのですが、ただ面白いだけの話ではなく、極端にデフォルメされてはいるものの、人間がそれぞれ潜在的に持っている“業”というか、“性”というか、“弱いところ”“卑屈なところ”などが、それぞれの物語の中に色濃く散りばめられていて、実は読み応えある物語でした。
しかも、面白すぎて、どんどん読んで行くスピードが上がりました。
読後も強く深いものが心に残る本でした。本の厚みよりも、もっと厚く重いものが残ったのです。
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