談志の「まくらコレクション」を読んだ
『立川談志 まくらコレクション 夜明けを待つべし/立川談志著・和田尚久[構成](竹書房文庫)』を読みました。
“まくら”っていうのは、噺家が落語の本題に入る前の軽いお話みたいなものです。
で、それらを集めたもので、この本が出来上がったときには談志師匠は亡くなられていて、ご子息が内容確認したものだそうです。
この本に収録されている“まくら”は、談志晩年のものなので、やや愚痴っぽいところがあります。
それに以前からかもしれませんが、客と喧嘩になってしまうところまで文書化されていて、この人は“枯れる”ってこととは、あまり縁が無かったのかもしれません。
手術で喉をやられていて、苦しそうなことを言ってちょっと弱音をはいたりしてもいますが、やたら圓楽さんや木久蔵(現・木久翁)さんのことをひどく言ったりもしていて、本当はどう思っているのかは知れませんが、毒舌は相変わらずです。
私は談志師匠の噺は、けっこう元気でテレビに出て落語をやっていた頃が本当のことを言うと好きです。その頃は圓楽さんと二人で全国、世界も回っていたようで、高座でもそんなことを言っていました。
落語界の分裂前のことです。
談志さんと圓楽さんは二人の噺が終わると、舞台で熱くその日にかけた噺について、「あの部分は実はこんなことだったんじゃないだろうか」「それは発見だ」などと熱く語り合っていたことを思い出します。
それらはけっこうテープに録ってあって、今でも調子も滑舌も身振り手振りも生き生きして上り調子だった頃がそのまま聞くことができます。
「六尺棒」や「鼠穴」「人情八百屋」「明烏」・・泣いたり、腹を抱えて笑ったり、今聞いても素晴らしいのひと言です。圓楽さんの「中村仲蔵」なども良かった。
この「まくら」の中に、「不幸を知らない人間に、幸せなんぞ分かるもんか。飢えたことが無い者に、グルメもへったくれも、あるもんか。贅沢だよ、そんなの。・・・言っとくが、日本人、貧乏が一番よく似合う。」という部分がありました。
まったくの同感です。
私が子供の頃は、週末に奥さんが「あんた今週も頑張ったね、今夜は一本つけるよ」というと、「ありがたい、俺はしあわせだ」なんて会話があった時代でした。
それが「幸せ」だったのです。
今は「幸せ」の価値基準も“様変わり”したと思いますが、私などは上記のようなことがまだまだ“幸せ”だと感じるのです。
でも、その“ささやかなしあわせ”も麦酒が高いからそれに似たもの(発泡酒・第三のビールなど)で“せめてものしあわせ”を感じようとすると、それにも「まかりならん」と税金を掛けてくる恐ろしい人間が中央でこの国を司っているのです。
戦争もやりやすくして、相続税も重くして、人々皆に番号を付けて完全管理して、税金も取りっぱぐれがやがて無くなるだろうとほくそ笑んでいることでしょう。
一町人のささやかなしあわせなんて、そんな人には関係ないのでしょう。
話がそれました。
噺家は、そんな“町人”の生きて行く様子を語り、笑いのわからぬお上の目をかいくぐり、のらりくらりと、ちくちくとトゲを刺していってもらいたいものです。
【Now Playing】 Tomorrow Never Knows / The Beatles ( Rock )
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