今回はアナログ探訪でなく、CDでディランを聞いてみた
アルバム『The Times They Are A-Changin'/Bob Dylan』を、所有しているCDであらためて聞いてみました。
ノーベル文学賞をとったと、あちこちで今日も騒がれていますが、あらためて1963年のこのアルバム「時代は変わる」を聞いてみると、「そんなことどうでもよい」ということなんじゃないか、ディランにとっても、ディランを聞いている人にとっても・・というふうに感じました。
冒頭のタイトル曲でも、今ある価値観を信じているならそれはいずれ逆さになっているぞ、せっかちに決めつけるな・・と歌っていて、私が感じたのは当時のアメリカは1950年代までの繁栄に陰りが見え始め、社会も人の心も一部で疲弊しているな、ということでした。
それは繁栄の恩恵を受けている側と、社会のある意味底辺に這いつくばるように生きている人(特に若者)を浮き彫りにしているのです。
それをアコースティック・ギターで、ディランが訥々と歌い出すと何かが心の中で動き出すのです。
そのざわざわとした心の感覚が、私が初めてディランを聞いたときの衝撃でした。
「One Too Many Mornings(いつもの朝に)」は、ディランの「A Day In The Life(※ビートルズの有名曲・・人生のある一日を切り取った作品)」かもしれないと思いました。
これを淡々とギターをつま弾き、歌うディランの風情は荒涼とした人々の心に染み渡ります。
「Boots Of Spanish Leathert(スペイン皮のブーツ)」は、あの太田裕美さんの「木綿のハンカチーフ」逆バージョンみたいで、今回聞いて初めてそう思ったのですが、“恋の行方”の表現として、これまたググッと心引き寄せられる作品だとあらためて感じました。
「The Lonesome Death Of Hattie Carroll(ハッティ・キャロルの寂しい死)」には心引き裂かれます。
1963年の春、メリーランド州、ボルチモアのエマーソン・ホテルでウェイトレスをしていたハッティ・キャロル(黒人女性)が殺されました。殺したのはウィリアム・ザンジンガーという白人青年。
殺害の理由は自分が注文した飲み物をもってくるのが遅かったというものでした。
キャロルはステッキで頭部を殴打され死亡。
見ていた200人の客は誰一人としてその暴行を止めなかった・・。
そして、裁判の結果下された刑は、「6ヶ月の禁固刑」。さらに父親がメリーランド州評議員だったことからその刑も免除された・・。
それがアメリカなのだとディランは歌い、怒りをあらわにするのでなく静かに歌うので余計に悲しみが増すのです。
「顔からハンカチをとりなさい、今は泣くときではない」というリフレインが最後に「顔をハンカチに埋めなさい、今こそ泣くときだ」と変わり、胸が引き裂かれるような思いになるのです。
このアルバム一枚でもディランの音楽と詩がどんなに素晴らしいものかがわかります。
・・でも、賞をあげてもディランには、それによる喜びはないのかもしれないと思いました。
« 珠城りょうさんトップ、プレお披露目「アーサー王伝説」初日を見た | トップページ | 映画「ベストセラー」を見てきました »
「音楽」カテゴリの記事
- 俳句を詠んでみる_0267【 枯野に佇む ギターの音 聞こゆ 】(2024.10.31)
- 映画「トノバン 音楽家加藤和彦とその時代」を見ました。(2024.06.06)
- 俳句を詠んでみる_0078【 長夜(ちょうや) 返らぬレコードの音 聞こゆ 】(2024.04.27)
- 俳句を詠んでみる_0071【 木の撥(ばち)で シンバル叩く音 冷たし 】(2024.04.23)
- 俳句を詠んでみる_0069【 音ハズれ 色なき風に 乗るギター 】(2024.04.22)
「文化・芸術」カテゴリの記事
- 俳句を詠んでみる_0296【 小春の館 ムササビの埴輪飛ぶ 】(2024.12.08)
- 俳句を詠んでみる_0281【 十一月 案内届く うれしさ 】(2024.11.23)
- 俳句を詠んでみる_0273【 肌寒に 次の干支の 守り探す 】(2024.11.08)
- 「日本人と日本文化/対談:司馬遼太郎_ドナルド・キーン」を読みました。(2024.10.17)
- 「物情騒然。人生は五十一から/小林信彦」を読みました。(2024.09.13)
「しみじみモード、私の気持ち」カテゴリの記事
- 俳句を詠んでみる_0299【 冬座敷 マンデリン淹れる日の 午後 】(2024.12.11)
- 俳句を詠んでみる_0288【 行く秋 三百句まで あと十二句 】(2024.11.30)
- 俳句を詠んでみる_0278【 漸寒(ややさむ)に もらった薬切り分ける 】(2024.11.20)
- 俳句を詠んでみる_0277【 秋思 命の危うさ 儚さ 知る 】(2024.11.19)
- かつての仕事仲間と神社に健康を祈りに行きました。(2024.11.09)
「社会の出来事」カテゴリの記事
- 「運を天に任すなんて 人間・中山素平/城山三郎」を読みました。(2024.11.25)
- 「パオロ・マッツァリーノの日本史漫談」を読みました。(2024.11.21)
- 映画「対外秘」を見ました。(2024.11.20)
- 「とかくこの世はダメとムダ/山本夏彦」を読みました。(2024.11.07)
- 「カツ丼わしづかみ食いの法則/椎名誠」を読みました。(2024.10.03)
« 珠城りょうさんトップ、プレお披露目「アーサー王伝説」初日を見た | トップページ | 映画「ベストセラー」を見てきました »
コメント