「その手をにぎりたい」を読んだ
『その手をにぎりたい/柚木麻子著(小学館文庫)』を読みました。
この小説の舞台となっている時代は、まさにバブル期。著者の柚木さんはその当時幼稚園児だった・・(^^;)・・なのに、見てきたようにあの時代が描かれていました。
主人公は女性。まさに“平野ノラ”さんがシリアスになり、バブル期の大都会に生き、高級寿司店に通い、白木のカウンターの向こうから、その田舎から東京に出て来た純朴な女性に提供される丁寧なつくりの寿司。
そこにはほのかに漂うような恋のようなものが通う・・。
女性は一度は東京で働いてみたいと、東京の中小企業に勤めるが、都会の生活も味わったし、かんぴょう農家の実家に帰ろうとして、「よく働いてくれた」と連れて行かれた高級寿司店で今まで食べたことのない“世界”に驚き、そして握ってくれた一ノ瀬という職人にもあこがれ、都会で生きていこうと決意します。
そこからはバブルに乗じて日の出の勢いをみせる不動産業界に転職。全てを仕事に捧げるかのような鬼神の働きをして主人公の女性はブイブイいわせて都会を泳ぎまくります。
いいよる男とも愛のない付き合いを二股でしつつ、突き進み、しかし初めて東京で知った高級寿司店「すし静」には常に自分をニュートラルにして通い詰め、怒濤の生活の節目節目で味わう寿司と、一ノ瀬との会話に深い人生の味わいを刻んで行きます。
もうねぇ、久しぶりに心に染み渡るいい小説でした。
この小説をバブル期に幼稚園児だった女性が書いたとは、とても思えませんでした…σ(^_^;)
物語中に出てくる“流行り物”やユーミン、ワムの曲、六本木あたりのあの頃の夜の様子・・。
ラストに向けて自分のバブルな東京での生活、人生について振り返るときの様子、そしてそれでも自分の人生をまだ前を向いて生きていこうとする主人公・・。
最後の最後であこがれの一ノ瀬としみじみと心かよわせるシーンに我が事のように大きな感動がひろがりました。
いい本だったなぁ・・、いつまでも自分の中でたいせつにしたいものを見つけたような気がしました。
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