手塚治虫傑作選「戦争と日本人」を読みました
『手塚治虫傑作選「戦争と日本人」/祥伝社新書』を読みました。
これはあの手塚治虫先生が描いた『戦争』に関わる漫画について9編収録したもので、手塚先生自身が中学校(現在の高校)に入った年、日本とアメリカは開戦しています。
現在の内閣はここのところ大きく国民の信頼を失い、揺らいでいるようですが、つい最近までは安保関連の法制改正や、憲法改正に向けて一直線でした。このあいだまでは戦争の記憶や平和の尊さについても風化され、鈍感になりかけていた我々日本国民、このタイミングで実際に戦争のさなか、感じたこと、経験したことを描いた手塚先生の漫画を読んでみることは、とてもいい経験になるのではないか、と思いました。
特に先生の実体験に基づいたと思われる「どついたれ」などを読んでいると、一般の人、普通の人が心の中ではほんとうに戦争がイヤで、早く終わってほしいと思っているにもかかわらず、理不尽な目に遭わされ、しかも本当はやりたくないことをさせられ、どうしようもない無力感を味わっていたことがわかります。
戦争が始まれば、考えられないような悲惨な経験をし、ひとりの人間としての価値など粉微塵になくなってしまうこと・・そんなことが想像できない人が、今たくさんいるような気がします。
自分の家族が、自分が、無理矢理戦わされて死んでいく姿が想像できないのでしょう。
戦うのは自衛隊?、あるいは自民党の憲法改正案に堂々と掲載されている“国防軍”だと思っているのでしょう。
想像力が足りなすぎる、それは私たちと同じ国民で、家族も、愛する人もいる日本国民です。
しかも、徴兵制についてもはっきり否定している発言はありません。「ありえない」とか「勝手に話を大きくつくっている」などと言ってはいますが、「徴兵は行わない」とはひと言も言っていません。・・騙されるなよ。
戦争のせいで互いを裏切り、友を失ってしまった話。
中学生の頃、怖かったガキ大将が、手塚をモデルにした少年の漫画を見ることが楽しみで、可愛い少女の絵を手塚に描いてもらい、それを宝物のようにしていたが、やがて大人になり徴兵され、戦死してしまう話。その元ガキ大将は戦地に手塚が描いた少女の絵を持っていった・・という話。
特攻を命じられたが、打ち落とされ、不時着した島で生きながらえ、でも国では火の玉となって敵艦に大打撃を与えたと・・「軍神」として崇められ、忠霊塔まで建てられてしまい、でも母親はそんなことはちっともうれしくなく、生きていてくれた方がよかったのだと表向きとは裏腹に嘆き悲しむ話。
そして何とかして生きて帰ってきた本人に、「特攻し、大きな戦果をあげ、もう死んだことになっているからもう一度突っ込んでこい」と、無理矢理戦闘機に再度乗せられてしまう話。
などなど、その数多くの作品にはもう読んだ瞬間から“釘付け”になってしまうでしょう。
手塚先生のこういう一面、見てみるのもいいと思いました。
【Now Playing】 I'll Never Smile Again / Bill Evans ( Jazz )
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