「小津映画 粋な日本語」を読んだ
『小津映画 粋な日本語/中村明著(ちくま文庫)』を読みました。
著者の中村明氏は、国立国語研究室長を経て、現在は早大の名誉教授。「作家の文体」「人物表現辞典」「日本語 語感の辞典」などの著書があります。
この本は、あの映画監督、小津安二郎の映画の中で使われていた台詞から、さまざまな特徴を丹念にひろい出し、小津の意図していたことや、当時の庶民の言葉づかい、世相、人々が互いに用いていた言葉での表現とそのやりとりなど、学者らしい研究的な探求視線で、その文化的な空気についても書かれていました。
冒頭では、台詞よりも前に映画を撮る小津監督の基本的な姿勢というか、映画に対する取り組み方、美意識などについても割とじっくりふれています。
そしてそのあとは怒濤のように映画の中に出てくる「口ぐせ」、一見無駄なようにみえる「会話の芸」ともいえるやりとり、「台詞の“間”」、コミカルだったり、わざと噛み合わないようにしている「台詞の展開」などについて、実に事細かに数々の映画の中から台詞を洗い出し、小津の台詞の魅力を“とことん”と言えるまでに書き込んでいます。
エスプリとアイロニー、にじみだすユーモア、などなど、あの淡々としてストーリーがあるのか?この映画?!みたいな小津映画から滲み出る魅力のようなものをあぶり出しています。
そう、私もたくさんの小津映画を見たわけではありませんが、特段いわゆる映画らしい急なストーリー展開もなく、何が言いたいのだろうと思わせておいて、最後にはしみじみとしてしまう“マジック”的な“超平凡”展開に魅せられてしまうのです。
それは、なんでもない台詞の端々から実は知らず識らずのうちに感じ取っていたわけですが、たとえばこの台詞は小津映画のどことどこに何度出てくるなんて、統計的な観点からも小津映画の秘密を探り当てているのです。
それから、読んでいて、平成の現在ではすっかり死後になった言葉遣いも多々あることを知りました。
親子で敬語を日常的に使っている様子や、「あそばせ」言葉も当時はけっこう普通に使われています。
あとは、主語をはっきりさせず、アウンの間でわかれ!みたいな表現などもいくつもあげられていました。
こうして、台詞中心に小津映画を味わってみると、ますますその奥深さに驚くことになったのです。
まだ見ていない小津映画、また探してみようと思います。
【Now Playing】 Infant Eyes / Wayne Shorter ( Jazz )
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