「葬送の仕事師たち」を読んだ
『葬送の仕事師たち/井上理津子著(新潮文庫)』という本を読みました。
これはフリーライターの著者が、自らの父母を相次いで失い、そのときに葬送の仕事をしている人に興味を持って、その後“葬送”という仕事の「表」と「裏」で働く人達にインタビューをしながら書いたノンフィクションです。
私も父母を数年前に続けて亡くし、今までで一番身近に葬儀と葬儀に関わる様々なことを体験しました。
そのときにこの本の著者や、この本に登場する葬送に関する仕事に就いている人達の経験にもあるのですが、人の死と、そして亡くなった直後から様々な人達が表側でも、裏側でも大変なことをしているのを感じました。
亡くなった直後の葬儀屋さんとのやり取り。遺体への処置、運搬、納棺師が現われたり、自宅で通夜までの間遺体と暮らすことになった数日。
通夜、葬儀・・四十九日頃まで、ものすごい数の人々が一人の葬送のために足を運んだり、様々な作業、供養、その他数え切れないことをするのでした。
そのときの私には、葬送に関わる仕事をしている人達がとても気になりました。
亡くなった直後に現われ、静かに、そして淡々と今後の話をする葬儀社の担当の方。
あの冷静さと、家族への心配りは私のような“並みの人間”には到底できないものでした。
「この人にも家族があり、日々の暮らしがあるのだろうけど、この仕事と家庭での生活の区分けというか、心の切り替えなどはどうしているのだろう?」などと咄嗟に思ったりもしました。
この本に登場する葬儀社社員、納棺師、エンバーマー(日本ではまだあまりポピュラーではないが、血管から特殊な薬液を投入するなどして生前の本人そのままのような復元的なことをする技術者)、火葬場職員など、それぞれの人にそれぞれの思いがあり、亡くなった人、その遺族に対する心配り、そして自らの仕事への誇りを非常に強く感じました。
様々な葬送に関する仕事をする人の葬儀の際の遺族とのエピソードには何度も何度も泣いてしまいました。人の死と、その家族などに向き合うことは、人とはなんだろうという人生のテーマに等しいことなのだと、あらためて感じました。
この本に登場する葬送の仕事に就いている人たちの多くが、若い頃身近な人の死に接して、その別れ方に“悔いが残る”ようなことがあり、それを自分の手で亡くなった人にとってもその家族にとっても良いものにしてあげたい、そんな職業に就きたい、そんな職業はないのか?!とその仕事に就いています。
また、逆に仕方なくその仕事に就いたのだが、でも今ではその仕事を誇りに日々生きている人にもふれていて、いい本を手にすることができたと、感謝するような気持ちになりました。
「人の死」は、「人の生」の確認でもあり、まだまだじっくりと考えたいことだと思いました。
【Now Playing】 チェリー / 星羅 ( JPop )
« 本は紙で読みたいし、街に見つけに出掛けたい | トップページ | こういう人、今までに何人も会ってきてますよねぇ »
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 古本の頁を繰っていて見つけるもの(2022.01.23)
- 中学生時代から今に至るまで、「レコード盤を貸してくれ」「CDを貸してくれ」「本を貸してくれ」と言われる話。(2021.12.21)
- 「日本人も知らなかったニッポン/桐谷エリザベス」を読みました。(2021.10.03)
- 「小林信彦 萩本欽一 ふたりの笑タイム -名喜劇人たちの横顔・素顔・舞台裏-」を読みました。(2021.09.28)
- 坪内祐三の「最後の人声天語」を読んだ。(2021.09.25)
「家族・親子」カテゴリの記事
- 俳句を詠んでみる_0221【 秋暑 コインランドリーの小半時 】(2024.09.12)
- 俳句を詠んでみる_0220【 雷響 停電し 朝が蒸発す 】(2024.09.11)
- 俳句を詠んでみる_0218【 葡萄狩のバスに妻を送る朝 】(2024.09.09)
- 俳句を詠んでみる_0214【 秋の朝 聞こえる 階下への足音 】(2024.09.05)
- 俳句を詠んでみる_0209【 目玉焼き ひとつ つけちゃう 夏の昼 】(2024.08.31)
「しみじみモード、私の気持ち」カテゴリの記事
- 「syunkon日記 スターバックスで普通のコーヒーを頼む人を尊敬する件/山本ゆり」を読みました。(2024.08.28)
- 俳句を詠んでみる_0194【 颱風 心折る悪罵 堪ふるのみ 】(2024.08.16)
- 「しがみつかない生き方/香山リカ」を読みました。(2024.08.01)
- 俳句を詠んでみる_0175【 あの夏の 高校生が 妻となる 】(2024.07.28)
- 俳句を詠んでみる_0162【 天竺牡丹(てんじくぼたん) 腰掛けて 空 見たい 】(2024.07.15)
« 本は紙で読みたいし、街に見つけに出掛けたい | トップページ | こういう人、今までに何人も会ってきてますよねぇ »
コメント