「プールサイド小景・静物」庄野潤三の小説を読んだ
『プールサイド小景・静物/庄野潤三著(新潮文庫)』を読みました。
昭和40年に発行されたこの文庫本、平成25年の8月時点ですでに38刷となっているので、よく売れた本なのだと思います。
昭和29年に芥川賞を受賞した「プールサイド小景」を含む七編が収録されていますが、どれも不思議な雰囲気、味わいを醸し出していて、文学というよりも、短編映画のような印象が心に残ります。
最初に出てくる「舞踏」では、うまくいっていない夫婦が描かれています。妻は、自分の気持ちをわかってほしいが、その方法がわからずに、家で泣き出したり、当時のあまりよくないウイスキーの貰いものを一気に飲んで倒れてしまったり、どうにも夫は困ってしまうのです。
でも夫は、若い妻がいて、幼い子もいるのに職場のさらに若い娘にほのかな恋心を抱いている・・。
物語は静々と進むが、何の解決もなくスッと終わってしまう。どうすんだぁ~この話!などと突然の終了に驚いていると、次の「プールサイド小景」が始まる。
ここでは、会社の金を使い込んだ夫が“クビ”になり、結局、毎日家にいることとなり、妻は今までの平穏な生活がいったい何だったのか、過去の日々を思い出すことも出来ずに茫然とその日暮らしの生活をして、その際の心模様が描かれたかと思うと、またもやそのまま未解決極まりない状態で物語はフェイドアウト。
油断も隙もない著者の作風に、最初は驚くが、実はその不思議な余韻にひたってしまうのでした。
たまたま列車内で知り合った外国人夫婦。数年後にとあることからその外国人のアメリカの家を訪ねることになるのだが、その家でも不思議な家族関係と、それぞれの人物が特異なキャラクターを持っていて、でも、小説でなくとも、こんなことってあるよ、きっと・・と、思いました。不思議な感覚。
そんなこんなを思いつつ読んでいるとこれまた人生のやるせなさが浮き上がってくるような気にさせてくれる作品。
などなど、それぞれの作品は、あまり日本の小説ではお目にかかれないようなたたずまいで存在しています。
勉強不足でこの作者、作品を存知上げませんでしたが、突き刺さるものは鋭く、大きなものがありました。
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