「へるん先生の汽車旅行/芦原伸」を読んだ
『へるん先生の汽車旅行 -小泉八雲と不思議の国・日本- /芦原伸著(集英社文庫)』という本を読みました。
副題にあるように、“へるん先生”とは小泉八雲のことです。
著者の芦原伸氏は、鉄道ジャーナルに入社後、編集者、作家として50カ国以上を取材した方で、この本でも、小泉八雲/ラフカディオ・ハーンが英国ダブリンからアメリカに渡り、ニューヨークからシンシナティ、トロント、から大陸を横断する道筋を現在の鉄道で追いかけ、さらにその都市でのハーンの足取りを辿りつつ、現在のそれら都市の様子も紀行的に追いかけ、そしてハーンの当時の暮らしぶりや、周囲の人達についても細かく調べています。
ハーンが日本に着いてからの鉄道・人力車などの足取りも現在の鉄道で追いかけ、その中で芦原氏自らの祖父がハーンを辿るうちに、その歴史の中で登場するなど、劇的な展開もありました。
私が驚いたのは、ラフカディオ・ハーンは、ギリシャの母に捨てられ、英国の父にも幼少期に捨てられ、かなり荒んだ状態でアメリカに渡って行ったという事実です。初めて知りました。
経済状態も明らかにひどく、ろくな仕事も貰えない状態や、せっかくハーンを援助しようとした人達とも結果的に仲違いし(ハーンの気の短さも大いに原因しているふしがある)、結局日本に渡るまでは、かなり“悲惨”とも言えるような状況であったことがわかりました。
日本に来たときにも、ハーンは40歳の一介のルポライターに過ぎず、一般的な松江の英語教師で、明治新政府の“お雇い外国人”という理解は間違っていたわけです。
うがって言うと、日本の珍聞奇談を原稿にして売ろうとしてやってきた“押しかけ外人”であり、むしろ“経済難民”に近い立場だったようです。とても意外。
しかし、松江に来てからのハーンは、日本人の神との関わり方、そして仏教にも神仏習合で自らを律するような時に信心する寛容さ、さらに自然(動物、虫などとの関わりも含む)との対峙の仕方、人々の暮らしぶり、文明的には欧米に遅れているが、文化的にはむしろ立派なものを持っている、そして日本人ひとり一人が素敵な生き方をしていることに大きく感銘を受けています。
実はこの本を読んで、今さらながら私も日本人の良さを再認識したのです。
だから逆に、現代の日本の国の在り方、人々の荒廃したような心の在り方、文明(特に科学技術的なこと)優先の頭でっかちな方向などに、やきもきするというか、当時の八雲に対して恥ずかしいような気持ちになったのです。
八雲と、日本人の妻セツの二人だけにしかわからないハーン特有の奇妙な日本語での会話、やり取りも載せられていましたが、実にいい!この夫婦の仲の良さを如実に表わしていて、“いい夫婦”になっていったのだな、と思いました。
ハーンの書いたものについては、私は後に編まれた全集のみしか読んでいませんが、細々と色々な作品、著述があることも知りました。
これらは、読んでいけばきっと、日本人が日本人として誇りを持って生きて行くうえでの一つの指針にさえなるのではないかと、読んでいて思いました。
ハーンの足跡を鉄道で辿りつつ、さらに当時の歴史的事実も明かしていく、面白い本でした。
あっという間に読み終えました。おすすめですよ。
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