高島俊男氏の「本が好き、悪口言うのはもっと好き」を読んだ。
『本が好き、悪口言うのはもっと好き/高島俊男著(ちくま文庫)』を読みました。
1995年に刊行されたものを1998年に文春文庫に収録、さらに、この「ちくま文庫」がそれを底本にして出来たものです。
とにかくこの著者の知識量はただ事ではありません。
身近な言葉から、新聞に、世間に使われている様々な言葉、そして歴史認識についても、我々が子供の頃から教わってきたことが薄っぺらで、いい加減なものであることを思い知らされました。
それらを事細かに書くと、このブログでも数十頁に渡ることになってしまいますので、私がこの本を読んで印象に残ったことを少しだけ。
多くの言葉と事物は、過去にもあって現在もある。しかし一部の言葉や事物は過去にはなくて、現在ある(あるいは生まれつつある)。また一部の言葉や事物は過去にあって、現在はなくなった。
と書かれていて、特に問題なのは、「最後の過去にあって、現在はなくなった」言葉、事物です。
「憲兵」「千人針」「玉砕」「闇市」などは現在にないのだから辞書に載せる必要はないという人がいる。・・ほんとうにたくさんいる。
・・私も、以前、部下から「あなたの使う言葉には、私の知らない言葉がある。私が二十数年生きてきて(たったの二十数年だよ(^_^;))一度も使わなかった、聞かなかった言葉なので、人間が生きて行く上で必要な言葉ではないと思われます。今後使わないでください。」と、言われたことがある。
思わず、「きみの語彙の無さ、知識の無さ、常識の無さに私のレベルを合わせることは出来ない」と言いそうになったが、「そんなことは私には出来ないよ」とだけ言ったことがある。
考えれば、その言葉を無くすことによって、いまわしい過去などが消える、またはその事象が無くなるなどと思っているおめでたい人がこの世に蔓延しているのではないかと、あらためて感じたのです。
「強姦」「戦争」「殺戮」「虐殺」などの言葉を辞書から消したり、平仮名まじり言葉にすると、世の中からそういう事象が無くなると思ってやしませんか。
残しておかないと、また起こるんだよ、そういうことが。だってそういう概念が消えてしまったり、過去の歴史まで抹殺してしまうんだから。
また、『まぜ書き』についても触れられていたが、「めい福」「被ばく」「えい航」「危ぐ」「駐とん地」「そ上」「破たん」「漏えい」などなど、著者同様、私も新聞などを読んでいて、イライラし、目眩がしてくることもある。
「子供」を「子ども」と近年表記するのも、「供」が“野郎供”みたいに野蛮だから平仮名にしていると聞いたことがあるが、本当か?!
「供」は単に複数の接尾語なんじゃないのか。
ほんとうに見ていて気持ちの悪いものだ。
などと怒ったり、がっかりしたりしつつ読んだわけだが、この本の内容は実に“濃く”て、このような話題はほんの些細なこととなっている。
知識の渦に巻き込まれたい方は是非とも読んでみて!凄い本です。
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