「地獄は克服できる/ヘルマン・ヘッセ」を読みました。
『地獄は克服できる/ヘルマン・ヘッセ(著)・フォルカー・ミヒェルス(編)・岡田朝雄(訳)(草思社文庫)』という本を読みました。
ヘッセが残した様々な文章からタイトルの「地獄は克服できる」という内容に沿ったものを編集して一冊の本にしたものです。
もっと若い時に読んでおけばよかったのか、でも、きっと若い時に読んでも意味がわからなかったかもしれません。
だから、今になってこの本と出会い、若い時にはまったく無かった考え方を知り、体中に沁みるように入ってきたのかもしれません。
私の心の中に残った部分を少しご紹介したいと思います。
すぐれた講演や、すばらしい音楽を聴いて楽しんだりしたのに、困窮や飢えや憂慮で生活に影がさしてくると、それまで愛していたものをことごとく失ってしまう人びとが少なくない。
そのような人たちは、それぞれの文化財に対してただ受動的な享受者としての関係をもっていたにすぎない。
逆境に陥って、これらの文化財に見捨てられてしまったことを認識する人、つまり蔵書をなくしてしまうと同時に思想に関心をなくしてしまう人や、コンサートの予約席を失うと同時に音楽を失ったりする人は、貧しい人である。
このような人は疑いもなく、すでにそれ以前においても、あの文化財という美しい世界と本物の正しい関係をもっていなかったのである。
・・今、こんな人ばかりだ・・と思いました。コロナの関係でいろいろ失っている状態の今、心の中に大切な文化をいつまでも持ち続けたい、と、あらためて思いました。
次、
私たちは生きることを通じて、子供から一人前の大人にならなくてはならない。
人間は誰でも、従属することのできる能力と、自己を犠牲にする能力をもたなくてはならないことを学ぶ。
つまり私たちは、社会の秩序を承認し、それを維持し、それを護るために自分の刹那的な快楽と欲望を犠牲にしなくてはならないことを学ぶのである。
私たちがこの秩序を承認し、強制されてではなく、自由意志でその秩序に従うならば、私たちは精神的に一人前の大人となり、教養ある人間となる。
・・というわけで、教養ある人間ってごく少なくなる・・。なんとか、最低限の教養は保ちたいと思いました。
次、
美しい音楽を、美しい風景を、君の人生での純粋で、すばらしい瞬間を思い出してごらんなさい!
君が心を込めてそうするならば、君の今のひとときがずっと明るいものとなり、将来がはるかに慰めの多いものとなり、人生が愛するに値するものになるという奇跡が起こるのではないだろうか、試してごらんなさい!
・・この言葉に自分が最も苦しんでいた時期に出会っていたら・・と思いました。
次、
何年ものあいだ、孤独で希望もなく通ってきたのだ。これらの苦しみを思い出すと、私は今でも骨の髄まで寒気を感じる。それはひとつの地獄、ひとつの冷たい、そして静かな地獄であった。
その終点には、・・・もし終点があるとすればであり、また終点があってほしいものであるが・・・暗闇と死のほかは何もない、希望のない道であるもののように思われる。
それから苦しみは終焉を迎えるか、変質して生気を帯びるようになり、受苦者にまだ痛みを与えはするであろうが、希望と生命力を与えるようになる。
私の孤独もそういう道をたどった。
・・苦しんで苦しんで、自ら命を絶とうとしたこともありましたが、そのときに感じた一縷の望みというか、一本の光のようなものを見ました。そして今に至る。ヘッセがその再現をしてくれたように感じました。
次、
[隠遁生活をしていたヘッセが、久しぶりに町に出たときに感じたことです]
びっくりするほど、信じられないほど朝早い時刻にここの人々は起き、夜になると帰ってきて、ピアノやヴァイオリンを弾き、風呂に入り、走って階段を上がり下りした。ほとんどが商人か商社の勤め人で、みなまったく途方もなく多忙であった。
ある人びとは実際に山のように仕事をかかえ、商売がうまくいかないので、その立て直しの苦労のために過労気味になっていた。
彼らはみな無理をしていた。そしてほとんどすべての人びとが、人間の生活には役に立たない、ただ製造業者と商人の利益になるだけの品物を製造するか、商っていた。
・・これはかつての私の姿であり、今の社会に生きるすべての人達の姿なんじゃないでしょうか。こういう生活をしていて、そして、やがて死んでいくのです。
というわけで、300頁以上もあるこの本の、ほんの一部を抜粋してご紹介しましたが、今の私には“腑に落ちる”ものばかりでした。
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