向田邦子さんの「父の詫び状」をあらためて読んでみた。
『父の詫び状/向田邦子著(文春文庫)』をブックオフで購入し、読みました。
向田さんのエッセイ、著作については何冊か読んでいますし、この「父の詫び状」に収められているエッセイの一部も「ベストエッセイ集」などで既に読んでおりましたが、でも「父の詫び状」については一冊まるごと読んでみたいと思い、全部読んでみました。
向田さんの幼い頃から、就職してテレビドラマの脚本を書くようになるまでの間に経験した様々なことが人間関係、当時の家の中の様子、世間の状況など実に細かい部分まで描写されているし、人間というものの心の中にはこんなつまらないことにこだわる部分があるのか、など絶妙な部分が描かれています。
これにはただ脱帽。
私もリアルタイムで見た向田さん脚本によるテレビ・ドラマ「寺内貫太郎一家」の、あの家族とその周囲にいる人の人間関係から巻き起こるドラマチックな展開と、どこの家にでもある頑固親父とそれに翻弄される家族の様子など、書こうと思っても(書こうという当時の発想もなかなかすごいことだ)誰にも書くことができないものだと思います。
そして、ただ愉快な思い出だけでなく、不思議と暗い部分を感じさせるエピソードも多く、それがなんだか我が事のように心に沁みてくるのです。
これがまた向田さんの文の魅力なのだと思います。
巻末の沢木耕太郎さんの解説で紹介されている雑誌の連載時評「笑わぬでもなし」の中で故・山本夏彦氏が書いた『向田邦子は突然あらわれてほとんど名人である』という一文がありました。
これは、私も当時「笑わぬでもなし」の単行本でリアルタイムに読みました。
そうか、山本夏彦氏にして向田さんの文は“名人”と呼ばせるくらいのものなか、と強く印象に残りました。
そんな向田さんの「父の詫び状」は、やはり名著でした。
ものすごく「力」を感じるもので、読後も心の中に残ったものが、ずっと引っかかって消えない・・可笑しいような、哀しいような、懐かしいような、恥ずかしいような、そんな気持ちが消えないのです。
向田さんについては、エッセイ以外に、様々なものが残されていて、妻もファンなので、妻所有の向田さんの陶器コレクションの写真集や、その他の残されている文献についても今後触れてみたいと、あらためて思いました。
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