「粗にして野だが卑ではない 石田禮助の生涯/城山三郎」を読みました。
『粗にして野だが卑ではない 石田禮助の生涯/城山三郎著(文春文庫)』を読みました。
前回、3月に城山三郎さんの本「よみがえる力は、どこに」を読んだ時にこのブログに感想を載せましたが、そのときに次回、城山さんの本は「粗にして野だが卑ではない」を読もうと書きました。
そして、今回がその「粗にして野だが卑ではない」の読後感です。
これは、78歳にして財界から初めて国鉄総裁になった“ヤング・ソルジャー(本人が言っている)”石田禮助氏の生涯を綴ったノンフィクションです。
氏は、三井物産に35年間在職し、数々の業績をあげ、明治人らしい「一徹」さと、海外生活30年で培われた合理主義を持ち合わせた人物で、まさに「粗にして野だが卑ではない」人物像そのままで堂々と生きた人とのことで、時代的に私は存知上げなかったのですが、とても興味深く読みました。
氏は、当時誰も引き受けようという気にならないような国鉄最大の危機のような状況のときに乞われて国鉄総裁の話を承けました。
歴代総裁の誰もが嫌がる国会答弁も、何せ“裏表”の無い人柄から事実を正直に答弁し、当時の国鉄・労組活動が一番過激であった時代に歯に衣着せぬ物言いで与党も野党議員も、労組も皆がアッと驚く熱弁をふるい、前総裁が大幅に削減させられた予算を獲得し、老朽化し、危険な状態であった青函連絡船の全てを新しくし、現場で昼夜問わず頑張る職員が安全運行に邁進できるような待遇と、施設整備等の予算も勝ち取ります。
議員の前でも「諸君」と言いながら国会で挨拶回りし、対等の立場で堂々とモノを言っていたようです。
“たよりがいのあるじいさん”という感じを多くの人が持ったようで、国会の審議では、誰の質問に対しても実に誠実に答える。
できないことは、できないとはっきり言う。
予算をけずられ、孤軍奮闘しているのをみると、野党までが「石田がんばれ」とバックアップしたくなったそうです。
なので、引退したときには、野党までもが合同で送別の会を催してくれたとのこと。
読んでいくと、時には合理的過ぎて、“言い過ぎ”や、“冷酷”とも感じられる言動も、私には感じられましたが、それでも石田氏を敬う人は多かったようです。
氏の堂々とした姿勢と、真摯な態度、レディファーストで、お客さま第一で、そして自分の下で働く人たちのことを常に考え、自らの信じる正義のためには、果敢に“渡り合う”、そんなところを読み進んでいくうちに、今の政府や都知事などのことが思い浮かびました。
「自分は、こう思う。国民のためにこうしたい。それにはこんな方策で、万が一の時にはこうする。だから、私についてきてほしい。いざとなれば、全責任は私がとる。」
こんなこと言える立派な人は・・一人もいないようですね。
この本を一番読んでもらいたい人がいるが、読んでも何を言っているのかきっとわからないだろうと思います。
せっかくいいことが書いてあるのに、この緊急事態に、上に立つ者の姿はこうでなければいけない、ということが書いてあるのに、・・もったいないことです。
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