「女の机/小林登美枝」を読みました。
『女の机/小林登美枝著(オフィスエム)』という本を読みました。
ブックオフで安価で見つけたものですが、1959年から2000年まで、42年間にわたり信濃毎日新聞のくらし・家庭欄に連載した「女の机」をまとめたものです。
あとがきで発行元のオフィスエム代表の寺島純子さんが書かれているのですが、この42年間の原稿はご本人がホスピスに入られる前に処分してしまい、最初は図書館に残っていたマイクロフィルムのチェックから始まり、膨大な作業になる・・と、気の遠くなるような作業を覚悟した矢先に、すべての記事をスクラップしていた人から連絡が有り、それをもとに編集作業をされたんだそうです。
でも、それだけの作業をする価値のある本にまとめられていた、と私は感じました。
私は恥ずかしながら小林登美枝さんを存知上げなかったのですが、お店で見つけて何頁かめくって見ただけで、今ではまったく見ることのできない“きちっ”とした文章に背筋が伸びました。
著者、小林登美枝さんは1916年生まれ、大阪時事新報記者から毎日新聞記者を経て、日本婦人団体連合会の常任理事となり、女性解放運動に関わっています。
そして、女性解放運動の先駆者、「平塚らいてう」の研究者として、自叙伝の編纂、著作に関わっています。
その文章は、“真っ直ぐ”で、前を向いて“胸を張って歩いている”ような、先ほども書きましたが、今では見ることのできないような素敵なものでした。
そして、読みやすいのです。
【二十一世紀を生きる女たちの〈らいてう百年祭〉】のときに、壇上で大岡昇平氏が、
「とにかく男性はダメでございます。戦争したいなんてトンチンカンなことを言う。女性の方がたが日本の将来のために主張を大きくかかげて、どうぞよろしくお願いいたします。」
と挨拶をされていたシーンが書かれていました。
2022年の今も戦争をやろうとして、やっているどこかの大統領が現にいるのです。男性は“ダメ”なのでございますよね。
かと思うと、夫を亡くした友人宅でおしゃべりをしていたときに、友人が庭に夕日が薄れかけると、そそくさと雨戸をしめはじめた。
西空の茜色がひたひたと闇に溶けてゆき、光を失う一瞬が惜しまれると思っていたが、夫を失って日が浅い友には、昼と夜のあわい感傷は、たえがたかったにちがいない・・としんみりする場面も描かれていました。
こういうことを書ける人も、ほとんどいなくなったんじゃないか、と感じました。
八十代になってからの文では、長く生きてみて、はじめて会得できる人の世の不可知の姿を思うとき、人おのおの自己の寿命を生ききることは人権の一つである・・という思いを綴っています。
でも、そういった成熟への旅を完了させるためには、今の日本(1997年現在)はなんとひどい状況か、とも書かれていました。
自分にとって今の今さえしのいでゆければよいと、風のような言葉だけで政治が牛耳られている・・・支配層すべての無責任体制。
歴史にたいするおそれへの想像力さえみえない、荒廃の構図は今にはじまったことではないが、私は胸のなかで敬慕する天上の先人たちに、あとはつづく女たちへのさらなる元気の加護を祈るばかりである。
と、思いを語られていました。齢81歳のそのときにこれだけのことを書かれる・・。
心に大きく留めました。
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