二宮清純氏の「プロ野球 衝撃の昭和史」を読みました。
『プロ野球「衝撃の昭和史」/二宮清純著(文芸春秋)』を読みました。
2012年に発行された本です。これもブックオフで見つけました。
内容はとても“濃く”、あの有名な「江夏の二十一球」にもさらに知られざる逸話があったとか、阪急対ヤクルトの日本シリーズでの大杉のホームランをめぐる1時間19分の中断にも様々な事実が存在する。
そして、その阪急とヤクルトの問題のホームラン判定が翌年の阪急対広島の「江夏の二十一球」にも大きな影響を与えていたことも書かれていました。
全然知らなかったことばかりでした。
ほかにも天覧試合での長嶋のサヨナラホームランが出るに至ったその試合展開と各選手のプレイの素晴らしさ、面白さも克明に調べられていて、あのゲーム自体が奇蹟的な展開だったのだということも知りました。
江川卓高校時代の渾身・最速の一球の話、野村監督率いる南海ホークスが阪急をプレイオフで破ったときの駆け引きの面白さ、落合が打撃の師匠とした二人のロッテ選手の話、ジャイアント馬場が実際はすごい投手だったという話、中日・小川投手の“背面投げ”に隠れた話、その他たくさんのオールド野球ファンには興味深い話が満載でした。
上記エピソードの内、阪急対ヤクルトの日本シリーズは私もテレビで見ていました。
第七戦の一番大事なところで打った大杉のホームランは・・ファウルでした。
テレビのビデオで見ても、上田監督が抗議したとおり完全なファウル、しかも1時間以上の中断の最中に打球が入ったスタンドで観ていたファンも「ファウルだった」と中継中にテレビ局側が聞くと応えていました。
阪急の守備陣もファウルだと思っていた・・。
「ポールを巻いて入ったホームランだ」という富澤線審の頑なな態度と、他の審判も実際はファウルだと思っていたので、毅然とした態度が取れませんでした。それがいけなかった。
いろいろなことを後から言う人はいたけど、上田監督はとても真面目ないい人でした。
「これじゃあ、一年間頑張ってきた選手に試合を続けろと言えないですよ」とプロ野球のコミッショナーやパリーグ会長、球団オーナーまでが「私が頭を下げても試合をしてくれないのか」と説得にあたっても、絞り出すような声で懇願する様子が全国中継されていました。
でも、抗議だけして引き下がっていれば実力に優る阪急が勝ったんじゃないかと思います。
長い中断で、先発の足立投手は、膝にたまった水に膝のお皿が浮いてしまい、サポーターで締めて、痛み止めを打って投げていたのですが、その間にもう投げられない膝の状態になってしまいました。
その後上田監督は試合を“投げて”しまったのか、経験のない高卒ルーキーをリリーフに出して派手に打たれ、日本一はヤクルトに。
そのとき、「抗議による試合の中断が試合の流れを変える」ということを感じたのが翌年近鉄の三塁コーチとして「江夏の二十一球」の広島の相手となった仰木さん。
江夏の21球のうち、14球目は無死満塁で近鉄の佐々木恭介が放った打球でした。
打球は三塁手の頭上を越えて、ファウルゾーンに落ちました。判定はファウル。
三塁守備に回っていた広島の三村のグラブに実はフェアゾーンで当たっていたのでした。
三村さんは「近鉄の西本監督に死ぬ前に謝っておかなければならない。そして他の人には墓まで持っていかねばならない事実だ」・・本人は、そう言ってグラブに当たったとは口にしていないものの、事実を語れない苦しさの中でずっと悩んでいたようです。
・・グラブに当たっていればフェアでヒット。レフト線に打球は転がり二者生還、近鉄のサヨナラ勝ちです。
これを知って当時のビデオ画像を探し、このシーンを確認してみましたが、たしかに三村さんはジャンプして打球を後ろに逃し、お尻から倒れ込んだ後、「やられた」という感じの動作をしています。
つまり、近鉄は勝っていた。西本監督は悲劇の名将ではなかった。
西本監督は、そのとき抗議しようとベンチを出たのですが、絶対の信頼をおいている三塁コーチの仰木さんが抗議しなかったのを見て、「彼が一番近くで見ていたのだから判定は間違いなかったのだろう」と抗議をやめてしまいました。
それもビデオ画像で確認しましたが、西本監督は「今のはフェアだ」とばかりベンチを飛び出して来たものの、仰木コーチのいる三塁方向を見て“残念”という表情をしてベンチに戻っているのです。
仰木さんは、前年の日本シリーズで、判定が覆らないのに抗議による中断で試合の流れが変わってしまうことを考えてグラブに当たったのは間近に見ていたのに抗議しなかったのです。
だって無死満塁、近鉄はそのとき“押せ押せ”状態だったのですから。
そして、あの奇蹟の二十一球のドラマにつながり、広島優勝・・という話。
こんな話ばかりがいくつも書かれているこの本、プロ野球ファンにはこたえられない中身の濃い本でした。
今読んでも、胸が苦しくなるような気持ちになったのでした。
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