「午後三時にビールを -酒場作品集-中央公論社編」
『午後三時にビールを -酒場作品集-/中央公論社編(中公文庫)』を読みました。
文庫オリジナルで、2023年に初版発行されています。
酒場を舞台にした作品を中心に、酒にまつわるエッセイ、短編小説を編集したものとなっていました。
井伏鱒二、太宰治、坂口安吾、檀一雄、内田百閒、池波正太郎、開高健、向田邦子、野坂昭如・・執筆者をちょっと見ただけで錚々たる顔ぶれですが、ことお酒や酒場の話になると、作家というものは一体全体人としてこれでいいのか!という人が殆どでした。
多くの作家は基本的に夜は飲んでいる(^_^;)・・さらに朝まで飲んでいるのもたくさんいました。
それだけならまだしも、誰彼かまわず討論をふっかけ、それならまだしも喧嘩、暴力に及ぶ人も多数。
夜10時に入店し、次第に客が減り、朝8時になると店のママまで寝ている。それでも居続け、夕方の5時に店を出たなんて強者もおりました。
こんな人、今、現代に果たしているのか。
ほとんど皆自分勝手で、作家が変わって次の章に行っても、主人公が変わるだけで、酒場にいる連中が同じという(^-^;パターンがいくつもありました。
同時代の“呑兵衛作家”はこの人たちなんだな、というのがわかりました。
こんな飲み方する人って、私が新人で就職した頃に最後の残党を見たきりです。
すごい人たちが私の当時の職場にもいました。
さて、私が一番気になったのは、吉田健一氏。
お昼に、神保町の店「ランチョン」で編集者らと生ビール三、四杯を空にしたころ、「そろそろリプトンにしましょうか」という声をかけ、手にしたハンカチをヒラヒラ振って「ご主人、ご主人」と叫び、カウンター奥の主人が心得たとばかり沸騰したリプトンティーとサントリーオールドのボトルを盆に載せて持ってくる・・。
環視の中でウイスキーをダブルの計量カップになみになみと注いで、ティーカップのなかへどっと放り込む。
その儀式を皆が見守っていると、生ビールで大きくなった腹の中へ少しずつ熱いウイスキーティーを啜りこむ。
途端に酔いがまわり、陶酔した気分に陥った・・と一緒にこの儀式をした寺田博氏が書いています。
そのあと吉田健一氏は、大学の講義で教壇に立つこととなっていて、スタスタと講義に向かったという。
吉田健一氏は、「原稿四十枚」との依頼があれば、最後の四十枚目の最後のひとマスで文章が終わるようにして提出するのが常であったという・・。
これを読んで、なんだか不思議な気分になり、几帳面さと強烈な主張、そしてウイスキーティーの儀式もそれに似通っているような氏の気持ちが伝わってくると思ったのでした。
いやもう、いろんな人がいるねぇ・・と思いました。
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