
『どこから行っても遠い町/川上弘美著(新潮文庫)』を読みました。
平成20年に刊行されたものの文庫化です。
連作短編集となっていて、それぞれの短編に登場する人たちが微妙につながっていて、それぞれがそれぞれの人生を歩んでいるんだなぁと、あたりまえのことを思いつつ、でも現実の世界も同様で、あの人もこの人も、私も、私のごく周囲の人たちも、皆が皆、悲しかったり、つらかったり、ほんのりとしあわせを感じたりすることもある人生を歩んでいることにあらためて気付くのでした。
それにしてもこの短編小説に出てくる人たちは“よろこび少ない”人ばかりで、男が女に対しても、そして、女が男に対しても、希望なんて見えてこない人が多すぎる・・のでした。
自分の奥さんと浮気した男と、奥さんが亡くなってから一緒に住むおじいさん二人だとか、大学生なのに、下宿に社会人の男を招き入れ、同棲し、学校をおろそかにしながらアルバイトを超えた仕事で男を支える・・が、最後は男を刺してしまう女性など、次々とさまざまな男女が登場します。
読んでいて、なにかどこかで聞いたような話だと思い、どこだろう?と思っていたら、ラジオの「テレフォン人生相談」に出てくる人たちでした。
時々、その人生相談を聞くことがあるのですが、「この人はいったいぜんたいどういう人生を歩んでいるんだ」と驚いたりあきれたりする人が毎日毎日途切れることなくわんさか相談の電話を掛けてきます。
その人たちにこの小説の登場人物は“酷似”していると思いました。
ということは、奇想天外な絵空事ではなく、この小説に書かれていることは“人間の業”を背負った人たちのノンフィクションではあるものの、実話と言ってもいいくらいの現実味を帯びたものであると思いました。
読み終えたあとも、どよんと重いものが体の中に残るような連作短編小説でした。
からだには“こたえ”ました。少し具合が悪くなりました。
と、ここまで書き終えたときに「あれ・・この本読んだことがある!」と思い出しました。
調べてみたら10年前に読んで、このブログに感想まで書いています。
覚えていないもんだねぇ~(^^;)
読み終えて感想書いたら、やっと思い出しました。
ついでなので、その10年前にこのブログに書いた感想文、全文を続いて載せておきます。
10年前の方がいい感想かも?!なんて思ってしまい、ちょっとがっかりもしたのですが、でもいいや、これも自分の記録です。
あらためて載せておきます。
以下、2013年9月24日にこのブログに書いた「どこから行っても遠い町」の感想全文です。
『どこから行っても遠い町/川上弘美著(新潮文庫)』を読みました。
川上さんの小説には、いつもしみじみさせられてしまうのですが、男二人で奇妙な同居をしながら魚屋をやっている二人の話では、魚屋に住み込んでいるその男性が、魚屋の親父(もうおじいさんだが)の亡くなった妻の浮気相手だったりして、その不思議な関係には読んでいて不思議がる登場人物共々違和感と不思議感でいっぱいになりました。
主婦と姑の関係の話もありますが、それがまた通常のパターンではなくて、互いに変なヤツだとは思いつつ微妙な仲の良い関係になっている話もありました。
むしろ夫よりも互いに理解を深めつつあったりして、その不可解さがまた川上さんの小説の真骨頂でもあります。
小料理屋の女将と若い板前との三度のくっつき合いと、別れの繰り返しの話もありましたが、ただの色恋沙汰ではないところがまた読み甲斐のあるお話でした。女将の「女」としての理不尽というか、訳の分からないところも妙に人生の機微を感じさせてくれました。
この本に出てくる十一の短編は、全ての話がゆるくどこかで繋がっていて、結局世の中って、一言では語り尽くせないそれぞれの不可思議な物語が連なって成り立っているのだと思うと、私も身の回りが急にいとおしくなったりするのでした。
しんみりと深みにはまった本でした。
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