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2023/04/01

「いまも、君を想う/川本三郎」を読みました。

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『いまも、君を想う/川本三郎著(新潮文庫)』という本を読みました。

文学、映画、旅などの評論、エッセイ、翻訳の執筆活動をされている川本三郎さんの奥様、服飾評論をされていた川本恵子さんが亡くなり、「いまも君を想う」というタイトルどおり、奥さんの恵子さんとの馴れ初めから結婚生活の想い出、そして亡くなる間際の出来事、妻への思いなどを綴った本でした。

著者の川本三郎さんは、ほんとうに奥さんが大好きで愛していたのだな、というのがどの頁を読んでみてもわかりました。

恵子さんは夫の川本三郎さんがまだ二十代なのに、ある事件をきっかけに勤めていた新聞社を辞めることになっても、自分がいるから大丈夫、あせらずに今後の方向を探しましょう・・というような感じで支え続け、その後も様々なことについてフォローもすれば背中も叩き、さらに健康にも注意を払い、たくわえができれば、二人の想い出をつくりに旅に出たり、ふたりの数々のエピソードは読んでいて心あたたまるものでした。

それぞれのエピソードは克明に記憶されていて、そのときの奥さんの表情や、仕草、そしてたぶんこういうことを考えてくれて、こんなことを話してくれたのだろう、ということがたくさん書かれていました。
それはもう、驚くばかりの鮮明な表現で・・。

後半になると、奥さんの癌が見つかり、その後のお二人の様子がこれも克明に書かれているのですが、恵子さんが気丈に振舞えば振舞うほど、涙なしには読めないということになってしまいました。

でも、読後感はとても爽やかでした。
夫、三郎さんの「ああすればよかった」「自分のとった行動はあれでよかったのか」という気持ちも書かれていましたが、これだけ奥さんのことを考え、思い、最後の日までのことを書ききったという事実が「爽やか」な印象を残すことになったのだと思います。

心に残る素敵な本でした。

 

2023/02/25

川上弘美さんの「どこから行っても遠い町」を読みました。

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『どこから行っても遠い町/川上弘美著(新潮文庫)』を読みました。
平成20年に刊行されたものの文庫化です。

連作短編集となっていて、それぞれの短編に登場する人たちが微妙につながっていて、それぞれがそれぞれの人生を歩んでいるんだなぁと、あたりまえのことを思いつつ、でも現実の世界も同様で、あの人もこの人も、私も、私のごく周囲の人たちも、皆が皆、悲しかったり、つらかったり、ほんのりとしあわせを感じたりすることもある人生を歩んでいることにあらためて気付くのでした。

それにしてもこの短編小説に出てくる人たちは“よろこび少ない”人ばかりで、男が女に対しても、そして、女が男に対しても、希望なんて見えてこない人が多すぎる・・のでした。

自分の奥さんと浮気した男と、奥さんが亡くなってから一緒に住むおじいさん二人だとか、大学生なのに、下宿に社会人の男を招き入れ、同棲し、学校をおろそかにしながらアルバイトを超えた仕事で男を支える・・が、最後は男を刺してしまう女性など、次々とさまざまな男女が登場します。

読んでいて、なにかどこかで聞いたような話だと思い、どこだろう?と思っていたら、ラジオの「テレフォン人生相談」に出てくる人たちでした。
時々、その人生相談を聞くことがあるのですが、「この人はいったいぜんたいどういう人生を歩んでいるんだ」と驚いたりあきれたりする人が毎日毎日途切れることなくわんさか相談の電話を掛けてきます。
その人たちにこの小説の登場人物は“酷似”していると思いました。

ということは、奇想天外な絵空事ではなく、この小説に書かれていることは“人間の業”を背負った人たちのノンフィクションではあるものの、実話と言ってもいいくらいの現実味を帯びたものであると思いました。

読み終えたあとも、どよんと重いものが体の中に残るような連作短編小説でした。
からだには“こたえ”ました。少し具合が悪くなりました。


と、ここまで書き終えたときに「あれ・・この本読んだことがある!」と思い出しました。
調べてみたら10年前に読んで、このブログに感想まで書いています。
覚えていないもんだねぇ~(^^;)
読み終えて感想書いたら、やっと思い出しました。

ついでなので、その10年前にこのブログに書いた感想文、全文を続いて載せておきます。
10年前の方がいい感想かも?!なんて思ってしまい、ちょっとがっかりもしたのですが、でもいいや、これも自分の記録です。
あらためて載せておきます。


以下、2013年9月24日にこのブログに書いた「どこから行っても遠い町」の感想全文です。

『どこから行っても遠い町/川上弘美著(新潮文庫)』を読みました。
川上さんの小説には、いつもしみじみさせられてしまうのですが、男二人で奇妙な同居をしながら魚屋をやっている二人の話では、魚屋に住み込んでいるその男性が、魚屋の親父(もうおじいさんだが)の亡くなった妻の浮気相手だったりして、その不思議な関係には読んでいて不思議がる登場人物共々違和感と不思議感でいっぱいになりました。

主婦と姑の関係の話もありますが、それがまた通常のパターンではなくて、互いに変なヤツだとは思いつつ微妙な仲の良い関係になっている話もありました。
むしろ夫よりも互いに理解を深めつつあったりして、その不可解さがまた川上さんの小説の真骨頂でもあります。

小料理屋の女将と若い板前との三度のくっつき合いと、別れの繰り返しの話もありましたが、ただの色恋沙汰ではないところがまた読み甲斐のあるお話でした。女将の「女」としての理不尽というか、訳の分からないところも妙に人生の機微を感じさせてくれました。

この本に出てくる十一の短編は、全ての話がゆるくどこかで繋がっていて、結局世の中って、一言では語り尽くせないそれぞれの不可思議な物語が連なって成り立っているのだと思うと、私も身の回りが急にいとおしくなったりするのでした。

しんみりと深みにはまった本でした。

 

2023/01/18

「異 ISEI 性/角田光代・穂村弘」を読みました。

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『異 ISEI 性/角田光代・穂村弘(河出書房新社)』という本を読みました。
これもブックオフで格安にて入手いたしました。

小説家の角田光代さんと、歌人の穂村弘さんがリレー形式でエッセイを書いているのですが、二人が考察しているのは「異性」「恋愛」についてです。

もう最初っからお二人とも“本音”で、“正直”に異性について語られていますし、互いに質問・疑問をぶつけ合っています。

いくつか私が気になった部分の例を挙げると、例えば別れた相手について、角田さんは次の女に対して自分が連れて行ってもらったレストランなどよりも高級なレストランへ別れた男が連れて行ったら“損”をした気になって許せない。

というようなことを言っていて、私にはこれが理解不能でした。
妻にも聞いてみたのですが、理解不能とのこと・・角田さんの心の持ち方がちょっと変わっているのか・・。

また、角田さんは好きになった相手には、ずっと自分だけを見ていてほしいし、恋愛当初にしていた劇的な愛の行動(突然、歩道橋上で抱きしめるとか、クリスマスの日にサンタの恰好をして窓の外から「今、カーテンを開けて外を見てごらん」などと電話を掛けてサプライズ的行動をするなど)は、自分のことが好きならずっと続けてほしい・・という・・(・_・;)
穂村さんがそのことについて書かれていますが、男としてはそんなこと毎回したら“ドン引き”されたり“キモい”と思われるんじゃないかということで、私も同意見です。

お二人のリレー会話の中で、ドキッとした話題は、男がモノを集めたりするのが好きなのは、例えば別れた後にその別れた恋人を資産目録に載せることがうれしいんじゃないか、“集める”“所有する”のと共通しているのではないかというものでした。

これはけっこう言えているんじゃないかと思いますよ。
もう別れたから関係ないのに、これこれこんな感じの美人でお嬢様だったとか、いろいろ頭の中の資産目録に搭載している男っているんじゃないのかなあと思いました。

私自身についても、若い頃はそんな傾向があったと思います・・・イヤな奴だな・・。
今はそういうの、どうでもよくなりましたが。

角田さんが言うには、女性にはそういう資産目録的な感覚はないんじゃないかとのことでした。
むしろ付き合っている現在が大事で、私の“好み”はこういう人、私が着ているものは、まさに私を表している、私が食事に出かけるところは、今の私の感覚はこういうもの、など、今の私を表現するものであるというのです。
これも言えているような気がします。

お二人が互いに“発見”続きの中、リレー・エッセイはずんずん続いたのですが、これは読み応えがありました。
私が若い頃にこの本を読むことが出来たなら、恋愛中に起こった数々のトラブルや問題はかなり避けられたと思いました(^_^;)残念。

でも、まだわかりません。
これから恋愛することがあるかもしれないので、もう一度読んで“そなえて”おこうと思いましたよ(#^.^#)

 

2023/01/16

『逃避の名言集/山口路子』を読みました。

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『逃避の名言集/山口路子著(だいわ文庫)』という本を読みました。
掲載している写真のように表紙カバーは二重になっていて、薄緑色の本来のものの上に黄色いカバーが掛かっていて、本来なら“帯”の部分を本体の大きさに拡大したような形になっています。
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売れて版を重ね、「これは売れる」と判断して派手目なカバーを二重にして被せたのかもしれません。本来の薄緑色の方が私はいいと思うけど・・・。

読んでみて、私には共感する部分が多々ありました。
ふだんから自信満々で生きている人、大声で話している人、これが正義だと堂々としている人、いつも明るく元気な人、などなど・・そんな人にはおよそ関係のない本です。

すぐに群れたがる人、思考が基本的に「集団」に根ざしている人。
人を出身校、出身地、国籍などで分類することが大好きな人。
こんな人たちにも無縁な本でした。

細かい分類をして、既婚・未婚、子供の有無、離婚経験・未経験、などと人はとにかく分けちゃうのが好きです。
著者は、「個というものをご存じないからできる技なのでしょう」と書いています。
世の中で中心にいる人、組織を動かしている人などに多いから、そうでない人間にとってはつらくて“生きずらい”世の中です。だから人生に疲れてしまうのかもしれません。

この本にも書かれていますが、「恋愛にも良識をもちだす人」がいます。
そんな人は「情熱を知らない人」であると著者は言っています。
私もそう思います。簡単に言うと芸能人の不倫記事などに怒っているような人です。

良識に反しても愛に生きる、という生き方。
これに反論するのは、情熱というものになじみがないんじゃないかと著者は説いていますが、「情熱になじみがない人と恋愛について語ることは時間の無駄です」というのは、まさにそのとおりだと私も常日頃思っていました。

誰かを見下すことで安心する人も今までの人生、社会経験の中で何人もお見掛けしました。
今になればこの著者のようにそんな人を“醜い人だ”と思うことができます。

ためらいもなく「正義」を使う人も信用できません。
そんな人に信用できる人はひとりもいませんでした、今までの人生の中で。

そのような世間から逃れるためには、「自己の世界」をつくらなければなりません、と著者は書いています。
私もこの歳になって、やっとそんなことに気づいて、日々「自己の世界」をつくろうとしているところなのです。

この本に書かれていることは、私の居る“こちら側”の人には沁みるようによくわかる本ですが、そうでない人にとっては、「こんなやつは人間の屑だ」と日頃思っているような人の例がたくさん載っているので、見るのもいやな本だと思います。

ということで、私にはとても良い本でした。

 

2023/01/13

中江有里さんの「残りものには、過去がある」を読みました。

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『残りものには、過去がある/中江有里著(新潮文庫)』を読みました。
ブックオフでたまたま見つけたのですが、読んでみたらすごい作品でした。

いくつもの短編が集まってひとつの作品になっています。
それはある二人の結婚式会場に集まってきた人たち、夫婦や親子、独身者、謎の叔母と姪、そして結婚式に来れなかった人、もちろん結婚する二人もそれぞれがそれぞれに今までの人生経験が有り、それぞれの物語を持っていて、それらが短編になり、集合したものがこの作品です。

結婚する二人が中心になっているのかと思うと、スピンオフ的に周囲の人たちの物語が短編になっていて、それがスピンオフどころか完全に感情移入してしまうくらいの濃い内容で、どの短編にも夢中で入り込んでしまいました。

特に新婦と従妹との深刻になってしまった関係が綴られていた短編には、ラストで私は声をあげて泣いてしまいました。
互いに心の中に死んでしまいたいほど苦しいものを持ちながら生きてきた二人の気持ちが一気に溶け出して心が通じ合うシーン、ぜひ読んでいただきたい。

その他どの短編もつらい恋愛や、過去の過ち、人との信頼関係など、全身にそれぞれの登場人物の生き方を感じながら読みました。ドキドキして思わずページを閉じてしまうようなこともありました。

今まで読んできた小説は、主人公と、直に主人公に関わる重要人物中心に書かれていて、それなりに共感しながら読んできましたが、この物語は、「人は皆、誰もが大きな困難をくぐり抜けたり、つらい経験をしたり、哀しい恋愛をしたりしている」のだということが切々と書かれていて、自分の人生に照らし合わせてみたりすると、自分だけではないのだと少しほっとしたり、でも登場人物に共感して切ない思いになったり、なぐさめられたり、勇気づけられたりしました。

なんだか新年早々素晴らしい作品を読めて新鮮な気分です。
よい本を読みました。

 

2022/08/15

東海林さだおさんと椎名誠さんの「ビールうぐうぐ対談」を読んだ。

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『ビールうぐうぐ対談/東海林さだお・椎名誠(文春文庫)』を読みました。

東海林さだおさんと、椎名誠さんの対談本ということですが、単行本としては1999年に刊行されたもので、その文庫化です。またもやブックオフ。

まあ早い話が、“どうでもいいこと”を“ああでもない”、“こうでもない”とお二人が話しているのを傍から見て面白がるという(^^;)本です。

対談する場所もいろいろで、銀座高級料亭では「なぜ高級料亭には生ビールがないのか」とか、「瓶ビール」が上位にいて、「缶ビールでは、いかんのか?!」などと(^_^;)くだらないことを論じ合っています。

屋形船に乗って、その意義を確認したり、芸者遊びをしたことのない二人が芸者さん二人に“遊び”の作法を教わったりもしています。ふたりとも途中から積極的に作法を覚えようとし、さらに気に入られるためにはどうしたらいいか、などと争って聞きだそうとしたり(^^;)もしています。

ラストの方では、かつての椎名さんが会社勤めしていた頃の上司で、爬虫類研究家の先生(私もテレビで見たことがある)に、男女の関係やそれにまつわる“強精”についてなど熱心に聞く二人( ̄O ̄;)

ずいぶんと勝手な精神分析論を掲げる大学の先生からも若い女性との出会いなどについて聞き出している (・_・;・・なにをたくらんでいるのか。
そして、先生も今じゃあ問題になるようなことを生徒と楽しんでいて、これ・・今じゃ発行できないだろうなぁと思いました。

最後には、椎名さんの本で挿絵イラストを主に担当している椎名さんの高校の同級生でもある「さわの・ひとし」さんが登場し、「妻以外の女性とつきあうことは、当然必要である」という論理(^_^;)から、「飲まない女性を最初からターゲットとしていない椎名さんは、80%の可能性を最初から捨てていることになるっ!」と、椎名さんを戒め( ̄O ̄;)、飲まない女性を“くどく”極意を伝授するのでありました。

それを身を乗り出すようにして拝聴するお二人(*^^*)

ま、そんな本でした。
でも、とても愉快な本、ということで、本日はお終いd(^_^o)

 

2022/07/13

伊集院静さんの「女と男の絶妙な話。-悩むが花-」を読みました。

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『女と男の絶妙な話 -悩むが花-/伊集院静著(文春文庫) 』を読みました。
これは、2017~2019年に週刊文春に連載されたものを抜粋した単行本をさらに文庫化したものです。
だからけっこう読んだことのあるものも多かったのですが、それでも面白く読みました。

相変わらずのことですが、文春に寄せられた読者からの相談に答える伊集院さんの回答には思わず笑ってしまうこともありました。

夫婦喧嘩で一度も勝ったことのない夫が、一度は勝利してギャフンと言わせたいと相談すると、「あんたはエラい、今まで負けっ放しで耐えてきた。もうそれでいい。勝とうなんて思うな。そんなことしたら大変なことになる。男はそれでいいのだ。」などと、今の私ならよくわかり、同感する名?回答でした。

妻が浮気をしているらしいと、携帯電話をのぞき見て気付き、それを問い詰めようと思う・・という夫からの相談にも、「携帯をのぞくヤツが悪い。奥さんだっていろいろあったんだ、黙って見逃せ。」というような回答があり、昔の私なら「そんなんでいいのかっ!」と思ったかもしれませんが、今の“枯淡の境地”…σ(^_^;)の私には、「夫婦にはそれぞれ夫にも妻にも様々な事情がある、問い詰める前によく考えろ」と思ってしまいそうです。

「どうしても“イケメン”じゃないと男はダメ。でも、そろそろ将来性のある男と結婚したいが、イケメンでない男性に恋心を抱けるだろうか」

という女性からの相談には、

問題はありません。
どんどんイケメン狩りに励みなさい。
イケメン=うぬぼれ、傲慢  うぬぼれ、傲慢=思慮浅く、迂闊(うかつ)ですから、その浅知恵と迂闊につけこめ!

魔がさすというケースは十分考えられるから、運良く合体できたら、シメたものです。
責任を取らせるのです。

・・( ̄O ̄;)・・と、奇想天外な回答をしますが、ここいらへんが伊集院さんの真骨頂でしょうか(^_^)

十分楽しませてもらいました。
相談が“エンターテインメント”になるなんて思いもしませんでした。

以上です。

 

2022/05/28

映画「瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと」を見て来ました。

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映画『瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと/2022年 日本 監督:中村裕 出演:瀬戸内寂聴』を見て来ました。

今年5月に満100歳を迎えるはずだった寂聴さん。その寂聴さんに17年間密着して取材した監督の中村裕氏、100歳の記念に寂聴さんと一緒に完成した映画を見ると二人で話していたのですが、「生誕100年記念」の映画ということになりました。

寂聴さんの法話は有名ですが、もちろんそのシーンも出てきはするものの、寂聴さんの日常の姿、発言、身体上の変化など様々な瀬戸内寂聴さんを見ることが出来ました。

法話の方では、私、不覚にも何度も涙を流してしまいました。

東日本大震災で消防団員の夫を亡くした奥さんが「毎日泣いて暮らしている。夫がいなくて私はどうして生きていったらいいのか」と涙ながらに寂聴さんに訴えると、寂聴さんは壇上から降りて行ってその人の手を握り、だんなさんは今あなたと一緒に来ていますよと強く握ると、その奥さんの腕にはだんなさんの形見の腕時計がされていて、皆んな涙ながらに見ていると、「大丈夫、あなたも死ぬんだから、あっちで会える。だんなさんはいつもあなたのことをそばで見ているのよ」と励まし、“あなたも死ぬんだから”のところでは会場は泣き笑いになりました。

また、若い女性が「もう生きていけない。私は尼になりたい。」というと、「あんた、尼だけにはなっちゃだめ!それは最悪の仕事。」なんて言って、その女性の肩を強く叩いて「だいじょうぶ、きょう、ここまで来たんだからやれる、生きていける」と励まし、ここでも「尼だけはなっちゃだめ」のところでしんみりとしていた会場は爆笑(^_^;)

 

 

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また監督との会話の中で、「恋愛は雷に打たれるのと一緒。どこが好きだとかそんなことじゃない。突然雷に打たれたように恋に落ちる。でも、本を読むよりも何よりも、それがその人の人生に大きな影響を与え、勉強になる。」という発言をされていました。
・・恥ずかしながら、ものすごくよくわかりました。

「あの男(女)は、ろくでもない人間だ、やめなさいと言われても、妻子がいるのだと言われても雷に打たれるのと同じなんだからどうしようもない。」・・そうだと思います。
なんだか知らないけど、週刊誌などを見て人の不倫に激怒したりしている人って、結局今まで本当に人を好きになったことがないのだと、私は思います。

寂聴さんの「晩節なんか汚したっていい。好きに行動すればいいの。」という言葉も“寂聴さんらしい”と思いました。

映画の中で、子どものようになったり、真剣に自らの考えを話したり、お酒を飲んでゴキゲンになったり、“えんえん”泣いたりする姿も見られましたが、そのまんまの瀬戸内寂聴さんの姿を見ることができるこの映画、とてもいいものでした。
“大おすすめ”です。

 

2022/05/18

半年ぶりに映画を見て来ました『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』

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去年の12月に見て以来、半年ぶりに映画『マイ・ニューヨーク・ダイアリー(My New York Diary)/2020年 アイルランド・カナダ合作 監督・脚本:フィリップ・ファラルドー 出演:マーガレット・クアリー、シガニー・ウィーバー、ダグラス・ブース、プライアン・F・オバーン、セオドア・ペレリン』を千葉劇場で見てまいりました。

今年に入ってコロナ感染が再拡大し始めたので、警戒し、六ヶ月の間様子見をしていました。

主人公を演じるマーガレット・クアリーは、ニューヨークで作家としての仕事を夢見ていたのですが、まずは就職先としてJ.D.サリンジャーの出版エージェンシーに入るところから物語は始まります。時代は1995年。

映画の中でも出て来ますが、オフィスではやっとコンピューターが使われ始めた頃で、ニューヨークの雰囲気も、職場の1920年代のような雰囲気もとてもいいのです。
これを見るだけでも、なんだか“いい時代”の“いい様子”を見ることが出来て、うれしくなってしまいました。

 

 

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厳しい老舗出版エージェンシーでの仕事、そしてさらに厳しい上司を演じるシガニー・ウィーバーの演技も見どころのひとつでした。
ビジネスとしてきっちりと線を引き、作品の内容に重きを置く主人公に指導していくのですが、でもプライベートでは、とても繊細で人間的な弱さも見せるシガニー・ウィーバーの役どころは、まさに演技力がものを言って、主人公との素晴らしい人間関係も見せてくれました。

また、主人公のマーガレット・クアリーは、声や、背中だけしか見えてこないサリンジャーとのやり取りや、恋人や友人との関係などを経て、自分を見つめ直していきます。
その過程もうまく描かれていましたし、彼女の演技も魅力あるものでした。
ラストの自分のやりたいことへの決断の表情もとてもよかった。

さらに、職場の人達や恋人、友人など、脇役陣の絶妙の演技も光るものがあり、いい映画になっていました。

久しぶりの映画復帰、いい作品から再開できてよかった・・と、今しみじみ感じているところです。

 

2022/01/29

矢川澄子さんの「妹たちへ」というエッセイ集を読みました。

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『矢川澄子ベスト・エッセイ 妹たちへ/矢川澄子著 早川茉莉編(ちくま文庫)』という本を読みました。

著者、矢川さんは1930~2002年、東京生まれで作家・詩人・翻訳家。
仏文学者作家の澁澤龍彦氏と結婚、仕事の協力者として活躍したが、その後離婚されています。そのことも、このエッセイ集には書かれていました。

失礼ながら、私は矢川さんのことを存知上げず、たまたま書店でこの本を見つけ、購入いたしました。なんか、ただ事じゃない雰囲気を醸し出している本だったのです。

読んで見て、たしかに“ただ事”じゃありませんでした(^_^;)

ものすごく繊細で、透明感があり、孤高のひと、みたいなところがありつつ、物怖じせず、信ずることに従い突き進んでいくようなところもあり、男に対して神秘的、性的な部分を感じさせつつも、ある意味とてもあっさりと、バッサリとした感覚も持っている・・魅力的でもあり、不思議な人でした。

後半に矢川さんと付き合いのあった森鴎外の娘、森茉莉さんとのエピソードも登場しましたが、なんだか森茉莉さんに似ているというか、“孤高”な感じが互いに呼び寄せるようなものがあったんじゃないか、などと思いました。

初めて「男」を経験したときのことも書かれていましたが、翌日の入浴中のことが書かれていて、生々しいがとてもセンシティブな表現に、新鮮な驚きを感じました。

ベスト・エッセイとして編集されているものなので、文学に関することから、日常生活のこと、食べ物のこと、自分と関わった人たちのことなど、“ネタ”は満載です。
四百数十頁もある本ですが、濃密で読み応えのあるものでした。

 

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