『当マイクロフォン』を読んで・・グラグラと心が動いた

『当マイクロフォン/三田完著(角川文庫)』を読みました。
この本も読みたくて買ったわけでなく、たまたま本屋さんで文庫棚のところを通りかかったときに、“ここにいるよ、読んでくれ”と本から呼びかけられた本です。ほんとにそんな感じ。
NHK屈指の語り手(アナウンサー)と呼ばれた中西龍さんの破天荒な、そして気骨ある、さらに涙と情念と愛欲と酒と信念の一生を描いた一冊です。
実は私、この方を存じ上げませんでした。
鬼平犯科帳のナレーションをなさったり、ラジオ「にっぽんのメロディー」という番組でも名調子を聞かせていた方だったそうで、この本を読んで、一度でいいからその語りを聞きたくなりました。
主人公の“龍”こと、中西さんはNHKに入局していきなり赴任先に遊郭を“脱け”た女とやってきて先輩を驚かせ、大家もイヤミを言うほど非番の昼間っから愛欲の日々。隣近所に声が聞こえて困ったという・・・。
ささいなことからその内縁の妻を殴り、そのあとは東京から追っ手が来て妻は連れ去られる。
が、しかし、独特の句読点で区切らない語りや、高校野球中継でその選手の背景を語り出し、ゲームが進行してもそちら優先で、自分が語っていた間にツーアウトになりました・・などという独特のアナウンスを展開。
それでも話題を呼ぶほどのアナウンスとなる・・。
上司のはからいで見合いをした県の土木部長の娘を「モーツァルトのレコードを聞きに来ませんか」と自宅に誘い、処女を散らすなどやり放題。
激高した上司は、九州の支局から今度は北海道の旭川の支局に中西を“ぶっ飛ばす”。
そこでもマル暴担当のデカに紹介された一杯飲み屋の女将とただならぬ関係になり、せっかく自分に与えられた全国放送の機会を女将と飲み屋の二階で一夜を過ごして、寝過ごし・・フイに。
そして地元のNHK付きの劇団の若い女性といい仲になり、結婚。
中西の腕前を見込んだ人から引き立てられ、名古屋や東京、大阪などの本局で実力を見せつけるが、相変わらずの激烈、破天荒な行動が災いし、波瀾万丈の人生を歩みます。
この物語の語り部となるNHKの後輩「二村」との心温まる交流と佐渡への旅行のシーンなどは心を鷲掴みされるようないい場面で、ジーンと来るし、お酒を飲んで“ぐすぐず”になるところも人間の、男の悲哀がにじみ出て泣けてきます。
周囲の実在の人物、生方アナや宮田輝アナなどの登場で当時のNHKの様子も浮き彫りになっていて、そのころの情景も目に浮かび、また中西さんへの無償の心遣いがあまりにも素敵な人たちがたくさん登場して、無頼なのに愛される主人公の魅力に読者も引き込まれていくのです。
のど自慢を任された時には、歌う人の背景を語り出し泣きだしてしまう中西さん・・・、苦情も続出だったようですが、その人となりがわかろうかというものです。
とにかく読んでいて、あまりにも魅力的な人物で、数々のエピソードと共に、読み終えるのがいやで何度も途中で本を閉じてしまったくらいでした。
ラストの中西さんの墓に供えられていた酒の水引の下にあった名前・・これにはまた驚きました。
読んでほしいので、このエピソードは詳しく書きませんが・・・。
ひとりのあまりにも魅力的で破天荒な男の物語。私はとても気に入りました。
今度はぜひ、“中西節”の録音を探したいと思っているところです。
【NowPlaying】 Don't Wanna Cry / The Sweet Heart Tempered ( Acoustic Instruments )
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