村山由佳の「ダブルファンタジー」を読んだ
『ダブル・ファンタジー(上・下)/村山由佳著(文春文庫)』を読みました。
直木賞受賞作家の村山さんの作品を実は私、一度も読んだことがありませんでした。
人から村山さんの話をされて「?それ誰だっけ」となり、ぽかんとされたこともありました。
きっかけが無かったのですね。それに今回「天使の卵」が村山さんの作品だということも初めて知りました、映画はDVDで見たことがあったのです。
このダブル・ファンタジーは、本屋さんのポップによると、「今までの作品とは異なる問題作」らしいのですが、私にとっては初めて。「無」の新鮮な境地で読み始めました。
そしたら、すごいんですね。
もう、主人公の奈津は、男をむさぼり尽くす。
田舎に引っ込んで脚本家として仕事をし、用があれば東京にも出かけ、家のことは夫にまかせ(夫は仕事を辞め、妻のマネージメントと家事、畑仕事をする生活)ている奈津が主人公。
これって千葉の田舎に引っ越していたことがあったらしい著者の村山由佳さんがダブってきますが・・・。
夫からセックスの最中に言われた“ひと言”が元で、そういうことが無くなり、やがて自身の「性欲」が人一倍強い事に目覚め、それからの男性との「性愛」遍歴が、この文庫本二冊に渡って繰り広げられるのです。
男に甘え、依存し、逆上し、馬鹿にしたかと思うと、ちょっと仕事で会えなくなったりする男にもっと自分をかまってほしいと思う・・・。
現実の世界にいたら手がつけられない女が主人公なのです。
奈津の奔放な恋愛、性愛に何の共感も無ければこの小説を読んでも何も感じないでしょうね。ある意味思い切った作品です。著者も“半端じゃない”方だと思いました。
後半では、二人でいる時間に満足し、性愛的にも満足している男との関係に居心地良さそうにしているのに、また“罠を仕掛けられた”とわかっているのに、別の男にちょっかいを出し、ふたたびみたび性愛地獄に入って行く奈津。
“死ななきゃ治らない”ってやつです。
そして、そんな自分の欲望を満たしていくことがさらに自分を空虚で孤独にしていく・・永遠に繰り返される“業”を感じさせたまま読者は取り残されます。
短刀でグサッと突かれたような作品でした。
因みに、この作品の中でもふれられているのですが、タイトルのダブル・ファンタジーは、ジョン・レノン生前最後のアルバム「ダブル・ファンタジー」(オノ・ヨーコとの共作)から来ています。
ジョンとヨーコのアルバム「ダブル・ファンタジー」は、40歳になったジョンが自身の人生再スタートを切り、妻や女性全般、自身の子供ショーンに対して非常に真摯に、静かに、ジェントルに歌い上げて行くのですが、交互に現れるヨーコの方は“欲情”し切って半狂乱の歌いっぷり・・・。あの仲が良さそうな二人でも、まったくかみ合わない感じで展開されているのです。
それをなぞらえて、この村山さんの作品ダブル・ファンタジーは、男女というものはそうして永遠にかみ合わずに互いの人生を繰り広げて行くのだ・・・ということを描いているのだと思いました。
もひとつ、ダブルファンタジーというのは、フリージアの品種のひとつ、花の名前なのです。
バミューダの植物園でそれを見たジョンがとても感激して、次のアルバムタイトルはこれだっ、と思ったらしいです。
かつてのジョンの激しいロックのイメージからはかけ離れた、優しい香りと優しい色合いを持つ花だったそうで、調べるとこの品種は、既に10年以上も前から、全く生産されなくなってしまったそうで、実は日本人の有志がそれがどんな花だったか大捜索中だそうです。
興味のある方は調べてみては!
話がそれましたが、この「ダブル・ファンタジー」、チャンネルが合えば、かなりハードでボリュームのあるガツンとくる作品です。特定の方におすすめします。
【NowPlaying】 Love Love Love / Kenny James Trio ( Jazz )
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