「あの日にドライブ」を読んだ
ブックオフで105円の文庫棚にあった『あの日にドライブ/荻原浩著(光文社文庫)』を買い求め、読みました。
43歳の銀行員が上司へのひと言がきっかけで職を失い、転職を試みるがいずれもうまく行かず、タクシー運転手募集の公告を見て“腰掛け”のつもりでタクシードライバーになる。
でも、営業成績は上がらず、希望する転職もままならず、・・家族ともぎくしゃく、という八方ふさがりな中、青春を過ごした街を通りかかり、もう一度人生をやり直したら・・・と、空想、妄想をする、そんな中で何か見つかるのかというお話でした。
あのときああしていれば、あのときこうしたら道は違った方向に行っていたかも、・・よく思うことです。
主人公のタクシードライバー・牧村伸郎は、若い頃描いていた人生が、途中から急旋回で悪くなり、あのときにこうしていれば・・と、悔やむことばかり。
大学時代に住んでいたアパートに行ってみたり、当時の彼女が別の男性と結婚し、結局出戻ってきた実家をそっとのぞきに行ったりします。
なんとなく気持ちはわかります。
取り返しのつかないことを取り返そうと妄想する主人公の気持ちにはおよびませんが。
運に任せるようなタクシーの営業成績も、年寄りの先輩のあとを尾行していろいろなことを知り、やがて少し成績も良くなってくる過程なども描かれていて、妙にリアルな感じがまたこの本の“読みどころ”です。
そういう現実の厳しさと、安易に良い方向を想像する主人公の様子が微妙に面白いという、なかなかの読み応えある本でした。
105円で買ってきた世界は、広大でした。
主人公や、その奥さん、かつての恋人、タクシー運転手仲間の奇妙な人達、かつての上司(ラスト近辺で主人公のタクシーに酔っぱらって乗ってくる)、さまざまな人生模様が織りなすこの世の無情がそこはかとない寂静感と共に胸に染みました。
・・結局、自分が今存在する状況があまりにも“暗い”と感じたら、自分で明かりを灯すほかないのだ。なんてことがしみじみと書かれていたようでした。
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