桐島、部活やめるってよ・・・えっ
『桐島、部活やめるってよ/朝井リョウ著(集英社文庫)』を読みました。
直木賞最年少受賞者で平成生まれの最初の受賞者なんだそうです。
直木賞受賞後に担当の出版社の方がラジオで喜びを語っていましたが、朝井さんの作品に取り組む姿勢や、以前は学生と作家、現在は会社員と作家の両立をきちっと出来ていること、インタビューでの立派な語り、作品の良さなどについても自慢の息子を語るような調子でうれしそうに語っていました。たぶんそんなに歳は離れていないのかもしれないけど。
この「桐島、部活やめるってよ」は、何度も本屋さんで見かけて気になっていました。
それに、誰もがこの本をほめています。今までになかったスタイルだ、などと聞いて、ついに読んでみました。この作品自体は直木賞受賞作ではないんですけどね。
読み始めて気になったのが、その景色や感覚の表現でした。
「さらさらと視界を流れていく景色は秋の余韻と冬の予感を含んでいて、乾いた風が学ランの襟元へ入り込んでは俺の体を何度も撫でていく」
「空を殴るように飛び跳ね、町を切り裂くように走り回る。飛行機雲を追い抜く早さで、二人乗りの自転車をかっ飛ばす」
「水色のTシャツと自分の肌の間を、薄く形を変えた風が、す、と通り過ぎて行く。自分の内側にあった汚い気持ちがそのままじわりとにじみ出てきたような粘り気を含んだ汗が、さらさらと浄化されていく気がした」
私のような者には、一度読んでこれがすっと入っては来ないのです。
頭の中で考え直して、・・んと、ああこういうことが言いたいのかな・・みたいになってしまってそこで読んでいる流れが止まってしまいます。今の若い人との感覚のギャップなのかもしれません。
この作品の中では何か中心的なストーリーがあって、それに付随する事象が肉付けされているというわけではなく、それぞれの高校生の様々な様子や普段の生活が、今の学生にはあまりにもリアルな感覚で表現されているのではないかと感じました。
でも、私にはどのエピソードもほとんど心にふれてくるものはありませんでした。現役高校生なら「そうそう、そうだよ」というところも、「ああそうかい、そうなんかい」となってしまって・・f^_^;)
ここで書かれている、学生の間ではグループにランク付けがあって、身なり、ルックスその他で「上」のグループに入っている者をあがめるようにしている情景というのは、想像もつかないのですが、今のご時世ならあり得ると思いました。
だから悩みも日常的に抱えてしまうのでは・・とも、ストーリーとはちょっと離れますが、思いました。
唯一(唯二?)おっ、となったのは、野球部に属しながらほとんどさぼっている男子(上の部類にいるらしい)が、自分の彼女やその他回りの友達などを俯瞰して孤独を感じている部分と、再婚同士のところに次女として入り、長女(義姉)と父(実父)が交通事故で亡くなってしまい、義母と暮らすことになってしまった女子高生の話。
義母は、精神的ショックで義理の娘を自分の長女として記憶を再構成してしまうエピソードがあったのですが、そこは小説的にはとても入り込むことができました。
でも、それさえもほんのエピソードのひとつとして書かれています。
だから、その後どうなったのかもわからない。
結局、私にはあまり合わないのかな、と思いました。
いい作品だと思いますが、もうごちそうさまでした。
道尾秀介さんの作品を読んだときも、いい作品だけど、もうこりごり、という印象でしたが、それと似ている読んだばかりの今の感想です。
【NowPlaying】 サマーズ・チャイルド / デヴィッド・ランツ ( Instrumental Music )
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