「原稿零枚日記」を読んだ
『原稿零枚日記/小川洋子著(集英社文庫)』を読みました。
ブックオフで立ち読みし、作家の日記かと思いきや、現実と不思議な世界の間を行ったり来たりするような正体不明の作品でした。
家族も親戚もいないのにあちこちの学校の運動会に出掛ける主人公であり、筆者でもあるかのような人物。
IDカード発行などで、入場が厳しくなる中、それでも取り締まりの緩いところに出掛ける主人公の作家。
借り物競走に生徒から指名されてそのまま出走、転倒して怪我をしてしまったり・・その生態は摩訶不思議です。
山奥の旅館に泊まり、夕刻の散歩に出掛け、旅館から更に山を登っていくと、あたり一面苔むした場所を発見!
そこには苔むしたたたずまいの“苔料理専門”の店があり、苔アラカルトを食べる作家・・・。
その不可解な世界はこの作者独自のものでした。
なぜか役所からは、主人公の作家のもとへ生活改善課という部署の職員が来て、何らかの生活指導のようなことをするのですが、それも意味不明の展開でした。
また、主人公の作家のかつての職業は、“あらすじ作り”であったという、またまたわかりずらい展開・・。
実は、大きな賞の応募原稿を前読みして、そのあらすじを作るというのがその内容でした。
それもコツコツと褒められるうちに続けていたが、段々と作品本編よりも「あらすじの方が良い」ということになってしまい、あらすじ作りの職を失ったりもしています。
でも、その後、生涯七作品しか書き上げなかったが、それらはいずれも名作となっている作家が、出版社の編集を通して、主人公に自分の作品のあらすじを作ってそれを一日一作ずつ読み上げに自宅に来てほしい、などという依頼があり、主人公はそれを受けます。
そして、七日間、七作あるその作家が作った作品のあらすじを読みに出掛けるのです。
その後数日でその高名な作家は亡くなってしまう・・これもまた不思議なお話でした。
そんなエピソードが短編としていくつも描かれ、それら短編が一体となると、この作品になるわけで、最初から最後まで不思議な話ばかり。
でもそれが魅力的というか、それら訳の分からない短編が居並ぶと不思議な世界を醸し出します。
最後まで不思議な気持ちで読み、不思議な余韻を残したまま読了。
・・・初めての感覚です、こんな感じ。
芥川賞を受賞した「妊娠カレンダー」や、読売文学賞を受賞した「博士の愛した数式」などの、まだ私が読んでいない作品もあるので、また探してきて読んでみたいと思っています。
他の作品はまたこの「原稿零枚日記」とは異なる作風なのでしょうか・・・。
【Now Playing】Fugue'n Blues / Kenny Burrell ( Jazz )
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