「ごくらくちんみ」を読みました
『ごくらくちんみ/杉浦日向子著(新潮文庫)』を読みました。
杉浦日向子さん自ら描いた“ちんみ”のイラスト付きで、その“ちんみ”にまつわるストーリー(珍味それぞれに別のストーリーが仕立てられている)が、この文庫だと各々二頁のショート・ストーリーになって、人生さまざまな物語と共に載せられていて、軽い読物であるにもかかわらず、とても深いものになっていました。
この本のあと書きによると、二十代の時点で杉浦さんは血液の病気と書かれていましたが、もういろいろなところを巡り歩いての著作などが出来ないと語られています。
そして、その病気を克服できそうになったときに、別の大きな病気が見つかりました。
でも、この本の編集担当には、取り乱すこともなく、落ち着いて、あの杉浦さんのテレビでも見せてくれたような様子で普通にお話されていたようです。
ご存知の方も多いかと思いますが、杉浦さんは46歳の若さでこの世を去りました。
「隠居生活」などとおっしゃって、前向きで明るく人生を愉しんでいらしたのもいろいろな場面で見かけられた方も多いでしょう。
そんな杉浦さんの一見軽い読物的なこの作品は、若い人から齢を重ねられた人、カップル、友達、いろいろなシチュエーションの人たちの人生模様が“ちんみ”というちょっと不思議な食べもののエピソードと共に語られているのです。
人生の“珍味”も味わえる珠玉の一冊でした。
あるストーリーでは、
・・「生きている今が、与えられた現実のすべて。解ったつもりでも、死は誰にとっても初体験なのだから、その瞬間は怖い。なにせ、その後が解らない。ともあれ、とりあえず生きている。骨と皮の間に命がある。たいしたことない、唯一の命が。」
という、まさに杉浦さんのお気持ちが表わされているようなセリフもありました。
これは、氷頭(ひず)なますと、鮭の皮について書かれたストーリーに出て来きたセリフです。
※鮭の頭にある軟骨を薄切りにして甘酢に漬けたのが氷頭なます。鮭皮はあぶると独特の風味が生まれる。・・と、キャプションがついて紹介されていました。
「ごくらくちんみ」で語られるそれぞれのストーリーは、決して“ごくらく”な話ばかりではありませんが、人それぞれの“ちょっと、ごくらく”な“いい話”が詰め込まれていました。
しみじみと良い本でした。
【Now Playing】 トーキング・ウィズ松尾堂 / 赤塚りえ子他 ( NHK-FM )
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