「乙女シジミの味/出久根達郎」を読みました。
『乙女シジミの味/出久根達郎著(新人物文庫)』を読みました。
これは、2001年~2007年までの著者の日々おりおりの様子を綴った日経新聞夕刊に掲載された文の中からの“選りすぐり”で、文庫本としては2010年に第一刷が発行されています。
著者、出久根さんは古書店主で、作家。「佃島ふたり書房」で直木賞も取られています。
読んでみると、ほんとうに何気ない日常の様子が自然に描かれていて、なかなかこんな文章には出会えないと思いました。
とびっきりの驚くようなエピソードもなく、私達が日々過しているところを書こうとしてもこんな深みのある文は書けません。
タイトルにある「乙女シジミ」とは、出雲に出かけられたときに食した、粒が大きく、太鼓のようにふくらんでいる“深山シジミ”というシジミのことだそうで、奥さまと一緒に出かけられた出雲の様子と共に書かれていました。
味も古風ななつかしさがあったとのこと。
正月のエピソードで、“初”の字がつく季語を歳時記でめくった話も書かれていました。
「初電話」という季語があるんですね。
例句として「衣ずれの音も聞こえて初電話」が挙げられていました。
家族が和服でくつろいでいた頃の句だと思う、と書かれていましたが、そんなことを思い出させてくれる文なんて、今ではやたらお目にかかれないかもしれません。
それだけで、読んでよかったと思いました。
ちょうど書かれていた時期がいよいよ年賀状がメールなどに押されて減少傾向にあるところで、出久根さんはその頃は毎年自分のところに来る賀状で「年賀状大賞」を決定し、表彰していたなんて書かれています。
でも、ご本人が還暦を過ぎ、年賀状について出すべきかどうか再考されています。
そんな時代の流れも感じさせてくれました。
ごく普通の生活をしている様子が書かれているが、でも昭和のエスプリもほんのりと感じさせてくれる味わい深い本でした。
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