「こころを詠んだ昭和の名句/宗内数雄」を読みました。
『こころを詠んだ昭和の名句/宗内数雄著(毎日新聞社)』という本を古本で見つけ、読んでみました。
2007年発行の本ですが、「昭和の名句」ということで、取り上げられている句の作者は明治や大正生まれの人も多数です。
そして侮れません、その多くが読んでいる私の心を鷲掴みでした。
実に「二百三十四」の句を詠み、それぞれの句に編者・宗内氏の力のこもった、そして真っすぐで、時には感動したその感情を露わに書かれていて、俳句に対する並々ならぬ愛情を感じました。
だから、読んでいるこちらもけっこう本気で読みました。
少しだけご紹介しておきましょうか。
〇蝶墜ちて大音響の結氷期/富澤赤黄男(とみざわかきお)
野分に耐え抜いた蝶も結氷期には地上か氷上に舞い、墜ちた。
結氷期の「大音響」を指揮者のごとく奏でさせた・・という解釈に唸りました。
作者は明治35年生まれです。それでこの詩的かつ音楽的な宇宙世界を表現しています。
言葉も失う凄さを感じました。
〇火の奥に牡丹崩るゝさまを見つ/加藤楸邨(かとうしゅうそん)
昭和二十年の空襲時、病気の弟を背負い、妻と見失った二人のわが子を求めて火の海をさまよった、そのときに網膜にやきついた牡丹のさまを映しとった・・と聞いて、その阿鼻叫喚の中での様子を思い、居ても立っても居られない思いをしました。
〇昏(くら)ければ揺り炎えたゝす蛍籠/橋本多佳子(はしもとたかこ)
蛍籠は内面のわが心、蛍は情念、炎えたつは情炎、失恋の句なのか、大胆な発想で、昏(くら)ければ、籠を揺すり蛍をいっせいに光らせる・・。
歌にして、石川さゆりさんに歌っていただきたくなりました。
〇ゆるやかに着てひとと逢ふ蛍の夜/桂信子(かつらのぶこ)
着物をある程度着なれた人が“ゆるやかに”着こなし、ひとと逢う・・大事な人なのだろう。女心がうたわれている素晴らしい句だと思いました。
〇おそるべき君等(きみら)の乳房夏来(きた)る/西東三鬼(さいとうさんき)
これ、大正9年生まれの作者が詠んだ句です。
昭和21年夏の作だそうで、衣服を着けた乳房の隆起を見て「おそるべき」などと思う人は今の時代にはいないと思われますが、戦後強くなった靴下と女・・と言われ始めていた時期だそうですが、三鬼はこの一句でそれを立証してみせたと解説されていました。
いくつかの昭和の名句をご紹介いたしましたが、まだまだどの句も私には驚きの句ばかりでした。
逆に言うと、令和の今の句はかなりソフトなんじゃないか、などと思いました。
今後は、この本を読んで受けた感動も心のうちに潜ませて、私も句を詠みたいと思います。
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