「いちげんさん/デビット・ゾペティ」を読みました。
『いちげんさん/デビット・ゾペティ著(集英社文庫)』を読みました。
古本屋で手に取り、「これは何かありそう」と思い、購入しました。
この作品は、1996年に第20回すばる文学賞を受賞しています。
著者は1962年スイス、ジュネーブ生まれとなっていて、同志社大学を卒業され、その後テレビ局で記者兼ディレクターとして活躍されていると記されていました。
古本屋で棚から取り出し、チラッと見ただけで文章に独特の“みずみずしさ”を感じました。それがこの本を読もうとしたきっかけです。
この小説は著者ゾペティさんの経験も生かされていたのでしょうか、京都に下宿する外国籍の留学生のお話しでした。
そして、大学にアルバイトの依頼に来ていた母娘に興味を持ち、その家にアルバイトに行くことになるのですが、娘は成人していて家に居り、盲目なのです。
その盲目の女性に本を読んでさしあげるというお仕事。
最初のうちはたどたどしい日本語で色々な本を読むのですが、そのうち娘とも心が通じ合い、本を読むだけでなく、カラオケに行ったり、その外国籍の主人公が好きな中華料理屋にチャンポンや餃子を食べに出掛けたり、公園や文学記念館のようなところも訪ねます。
銭湯にまで女性は興味を持ち、連れて行くことになったりもします。
二人の交流の様子はもちろんストーリーの中心となっていますが、主人公の留学生が京都で経験する外国人への対応に疎外感を感じたり、ひょんなことからヤクザの親分さんへの取材を手伝うことになり、逆にそこには外国人としての区別がなく疎外感が無かったりして、その心模様の描き方も新鮮でした。
ドキドキするような留学生と盲目の女性との付き合い方、性愛の描写もありますが、不思議とドロドロしたものはなく、美しく感じ、こういう真っ直ぐな、そして潔い文章表現には今までほとんど出会ったことがありませんでした。
ストーリーもひねくれたようなところも無く、最後には何か心に染み渡るようなものがありました。
最初の“勘”は当たっていたようです。
心に残る良い小説でした。
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