「寿司屋のかみさんお客様控帳/佐川芳枝」を読みました。
『寿司屋のかみさんお客様控帳/佐川芳枝著(講談社文庫)』を古本で見つけ、読んでみました。
このブログでも、著者、佐川さんの“寿司屋のおかみさん本”を過去に何冊もご紹介しましたが、この本は佐川さんの「名登利寿司」で出している寿司やつまみなどの料理だけでなく、やって来るお客さんたちについて焦点を合わせて書かれているものでした。
1999年に刊行され、2002年文庫化に際し加筆し、新たに二編を書き下ろしたものです。
名登利寿司を訪れる様々な男女の話も面白く、別れたり、夫が亡くなったり、男女二人の間に生まれた赤ちゃんがやがて高校生になって店を訪ねてきたり、大将と女将さんが男女の仲の行方にやきもきしたり、おめでたい結果に心から喜んだり・・と、そこに登場する人物達の描写は小説家でも“タジタジ”になるくらいの上手さです。
今までに読んだ本でもそうでしたが、“脱帽”です。
そしてそのエピソード中に出てくるお寿司の描写も実に美味しそうだし、眼前に浮かび上がってくるくらいの書きぶりで、参考にしようにもあまりの上手さに手も足も出ないくらいのもので、女将さんの文章力に惚れ惚れするばかりでした。
そして、この本最大のクライマックスは、当時の首相、橋本龍太郎氏が女将さんの本を読み、読者カードを書いてくれたものが女将さんの手もとに届き、「これは“いたずら”?それても本当に本人?」と疑問を持ったところに連絡が来て、現役の首相が名登利寿司を訪ねて来て、夫人と食事するということになる部分でした。
その話題でも、首相や夫人、周囲の人達の当時の様子が実に豊かに表現されていて、舌を巻きました。そして首相は“舌鼓を打つ”というお話 (#^.^#)
一般市民が知る橋本首相とは異なる、人間味あふれ、心遣いが見事な様子が描かれていましたが、それは丸ごと事実が書かれているのだと思いました。
私が東京勤務だった頃、仕事で自民党本部の議員でなく、職員の人達と付き合う機会がありましたが、お話を聞いていると、橋本首相を思い出し、「あの人は立派だった。人情もあった。恩を忘れない人だった。男気があった。関わる人達を大切にする人だった。」という話をたくさん聞きました。
きっとその一端が名登利寿司を訪れたときにも表れたのではないかと思います。
さらにこの本には、その後首相を退陣した後にも、夫人、娘さんと現れて名登利寿司で食事をする続編も加えられていました。
時には哀しい話もありましたが、いい話ばかり、いい人物ばかりが登場するというような心温まる本でした。
私も泣いたり、笑ったり、感心したりしながら読み終えました。
素敵な本でした。
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