「役員室午後三時/城山三郎」を読みました。
『役員室午後三時/城山三郎著(新潮文庫)』を古本で読みました。
昭和46年に新潮社から刊行されたものの昭和50年の文庫化版でした。
この作品は戦後、繊維業界の名門企業のワンマン社長が腹心だった部下にその椅子を追われるまでの経過を描いた経済小説でした。
実に緻密に役員室や工場などの現場、周囲の同業者、報道などの関係者の様子、社長の動向からそのときの精神状態、誰がどんな考えでどう行動して、さらにそのときの心象風景を描いていて、最後まで次にどんなことが起こるのかハラハラしながら読むことになりました。
しかも、特殊な専門用語などはあまり使っていないのに、業界の様子も手に取るようにわかり、人間というものがどういうものを心の中に持っているのか、そしてそれをどう発動させるのか・・流れを止めることなく、私のような者にもよくわかる明解な文章で書かれていて中身の濃い小説でした。
城山三郎さんの小説は現実の社会、経済の動きや、それに関わる人達が緻密に描かれていて、しかも平易な文体を用いていて、いつも「いいなあ、好きだなあ」と思いつつ読みます。
今回のこの小説でも繊維業界の帝国にでも君臨するような社長が、いつの間にか周りを固められて退任に追い込まれたかと思うと、さらにそこからの逆転(今度は逆の形で相手を追い込んでいく)、さらに想像を超える再度の大逆転が描かれていて、この業界に対する取材力もさることながら、物語の展開と登場人物個々の描き方と人物ごとの魅力まで濃密に書かれていて内容の深い小説だと思いました。
とても古いものですが、良い作品に出会えたと思いました。
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