『役員室午後三時/城山三郎著(新潮文庫)』を古本で読みました。
昭和46年に新潮社から刊行されたものの昭和50年の文庫化版でした。
この作品は戦後、繊維業界の名門企業のワンマン社長が腹心だった部下にその椅子を追われるまでの経過を描いた経済小説でした。
実に緻密に役員室や工場などの現場、周囲の同業者、報道などの関係者の様子、社長の動向からそのときの精神状態、誰がどんな考えでどう行動して、さらにそのときの心象風景を描いていて、最後まで次にどんなことが起こるのかハラハラしながら読むことになりました。
しかも、特殊な専門用語などはあまり使っていないのに、業界の様子も手に取るようにわかり、人間というものがどういうものを心の中に持っているのか、そしてそれをどう発動させるのか・・流れを止めることなく、私のような者にもよくわかる明解な文章で書かれていて中身の濃い小説でした。
城山三郎さんの小説は現実の社会、経済の動きや、それに関わる人達が緻密に描かれていて、しかも平易な文体を用いていて、いつも「いいなあ、好きだなあ」と思いつつ読みます。
今回のこの小説でも繊維業界の帝国にでも君臨するような社長が、いつの間にか周りを固められて退任に追い込まれたかと思うと、さらにそこからの逆転(今度は逆の形で相手を追い込んでいく)、さらに想像を超える再度の大逆転が描かれていて、この業界に対する取材力もさることながら、物語の展開と登場人物個々の描き方と人物ごとの魅力まで濃密に書かれていて内容の深い小説だと思いました。
とても古いものですが、良い作品に出会えたと思いました。
『風塵抄二/司馬遼太郎著(中央公論社)』を読みました。
これは、1991年10月~1995年1月、3月~7月、9月~1996年2月に基本的に月一回産経新聞朝刊に掲載されたものを1996年にまとめて発刊したものです。
時代は35年にも渡って遡った記事なのですが、読んでみると世の中の根本的なところなんて、そんなに変りないのではないかと思うことろがいくつもありました。
1992年の記事では、アメリカが日本国首相の発言を歪曲してまで日本たたきの空騒ぎをせねばならないということに不安を感じたと書かれていました。
ただ、アメリカが自国の産業を保護し、そのかがやかしい自由貿易の旗を半旗にすれば、“神”はたちどろこに去るにちがいない。むろん世界に混乱がおこる・・と続けられていましたが、これって今の世界状況と変りないと思いました。
歴史的に時間をかけて作り上げた選挙権を、自分の即物的利益や地域のエゴのために使う人がいる。
また利益誘導でそういう票をあつめる選挙の悪達者がいる。
こんどの選挙では、そういう悪達者たちまでが、“政治改革”を叫んでいる。
「過去の私とはちがうのです。べつの人間になったのです。」と、簡約すれば、そういうふうに聞こえる。
・・とも書かれていました。
“裏金”の人たちも、まるで別の人間になったかのようにして平気の平左で次の参院選に“いけしゃあしゃあ”と出馬しようとしています。
“べつ”の人間にはなっていませんよ、どうみても“おんなじ”人で、きっと当選すればまた元の悪達者に戻るのでしょう。
と、思いました。
時代が何十年経っても、人の考えることは似たり寄ったりです。
二度と戦争はしないと80年前に“もう懲り懲り”だとして誓ったのに、軍備だ軍備だ言っている人もいます。
武器を重装備にすれば、当然相手方はさらに重装備をするだろうと、何十年前によくよく分かったのに、また重装備しようとする人が、あちらこちらにチラホラ見え隠れしています。
この本には、何十年前に新聞に載り、当時の人たちが「そうだそうだ」と言ったことが書かれています。
もう一回読んでみて、現状日本で、そして世界で起こっていることをもう一度考えてみるのもよいかと思いました。
『最後の花時計/遠藤周作著(文藝春秋)』を古本で手に入れ、読みました。
初出は「産経新聞」の1993年12月~1995年4月に連載されたもので、この「最後の花時計」が刊行されたのは、1997年1月となっておりました。
読んでみて、三十年以上前のものですが政治的なことにかなり踏み込み、他国との国際的な関りについて政府、政治家にもモノを言い、しかもそれはかなり強い語調です。
医師からの深刻な病名の告知のやり方や、治療方法について、看護師(当時は看護婦と書かれています)の立派な仕事ぶりに病院側は環境を整備してあげなさいとの提言も繰り返しありました。
老いることの辛さや、自らどう感じているのか、作家仲間の死についても書かれていました。
正直言って、私には自分が中学時代に読んだ「ぐうたらシリーズ」の印象が強かったため、こんなにシリアスな文章ばかりの内容に驚きました。
また、当時はここまで書いても大丈夫だったのだな、とあらためて感じました。
“炎上”なんてものは、インターネット以前だし、そんなものはありません。
また、これほど自由な発言が出来たことに、当時の寛容な感覚がわかりました。
今や、とにかく重箱の隅を楊枝でほじくるような“いいがかり”“逆ぎれ”が横行していて、かえって“不自由”で、言いたいことも言えない空気が漂っているような感じがします。
遠藤氏の文を読んで、けっこう現在露呈し始めた社会の歪みがこの頃に芽生え始めていたのだとも感じました。
薄っすらとその当時の世間で感じられていたことが今現実化し、あらゆる分野で“ぐずぐず”となり、あと数年も経つと修復不能な世界になっているんじゃないかと不安にもなりました。
人間の愚かさを、今にしてその結果が見えてきたこの段階で、あらためて再確認するような読書となりました。
『魔法使い・山本夏彦の知恵/小池亮一著(東洋経済新報社)』を古本で見つけ、初めて見る本で、すかさず買い求めました。
私が山本夏彦を知ったのは大学時代。
たぶん「日常茶飯事」を文庫で読んだのが初めてだったと思います。
その後、この“変わった人”は何者だ?!と、読めば読むほどわかることと、わからないことが渦巻き、それが妙な気持ちを起こさせ、かなりの冊数を読むことになりました。
その山本夏彦の弟子と自称し、夏彦翁の著書、言動について夢中になって記し、研究し、解析し、心酔するのが、この本の著者・小池亮一氏です。
テレビに出ず(※私はラジオに出たのを二度ほど聞いたことがある)、講演せず、手形を切らず、金を貸さず、激辛で毒のあるコラムを書き続ける夏彦翁を徹底的に追い、追うだけならまだしも傍にピタリとくっついているかのような印象の本でした。
死んだ人と生きている人の区別なくコラムに登場させる夏彦翁の文、そして明治の文語体を駆使する翁の文章は格調高いのか、なかなか文語が理解できない私のような読者を嘲笑う如く、そしてけむに巻くかのように話は先へ先へと進み、半分くらいわかったところで終わってしまうのです。
だから、もう一度読み、こんなことかもしれないと思っていると、別の著書を本屋で見つけ、またまた同じように悶絶しながら読み、なんだか面白いと無限地獄の夏彦翁の世界に引きずり込まれていくのでした。
そして山本夏彦の魅力はそこにあるのではないかと思うのです。
著者、小池氏はまさにその沼にはまり、あまりの居心地の良さに“つかり続けて”いるというわけです。
巻末の方に書かれている米国からの原爆投下に対する夏彦翁の怒りの様子は、この本を読んで初めて知りました。
そこでまたそれについて書かれた本がないのかと探そうとしている自分がいます。
亡くなってから二十年以上も経っていると思いますが、まだまだ私の心の中には翁の考えていたことにもっとふれてみたいという気持ちがあります。
映画『フード・インク ポスト・コロナ(FOOD,INC,2)/2023年 アメリカ 製作・監督:ロバート・ケナー、メリッサ・ロブレド 出演:マイケル・ポーラン、ゲラルド・レイエス・チャベス、エリック・シュローサー、トニー・トンプソン、サラ・ロイド、ジョン・テスター、コリー・ブッカー、ドナルド・トランプ(アーカイブ)』を見ました。
第82回アカデミー賞「長編ドキュメンタリー映画賞」ノミネートの『フード・インク』。
そして今回の作品では2020年に起こったパンデミック後のアメリカの現実を描いた映画となっていました。
前作が3館上映からスタートし、やがて24週のロングランとなり、大ヒット作に。
日本でも2011年劇場公開。東日本大震災により中断しながらもクリーンヒットしました。
前作の当時から巨大食品企業の独占が一層進み、個人農家は衰退、貧富の差が広がり、多国籍企業による利益拡大のみを追及する効率的だけど、脆弱なフード・システムの問題が発生しているという状況をわかりやすく、強く、問題提起していました。
農家が多い地域なのにその町ではファストフードの店ばかり、様々な科学的に加工されたものが注入された食品ばかり食べ、農家をやっているのに健康を害する人が増加したり、人工甘味料を使用することにより、脳が糖分摂取が足りないと判断してしまい、より多く食べなくては・・という命令を身体に出してしまい、通常の1.5倍の食料を摂取してしまうという実態を研究成果として出していくシーンもありました。
でも、大企業はその研究成果について難癖をつける。運動不足が悪いのだとか、自己抑制できないことを企業のせいにしているなどと・・。
新たな農業の方法にチャレンジする人や、現状を訴え、変革するために議員になる人などの様子も見ることが出来ましたが、アメリカの食糧生産事情が世界に与える影響は大きく、反面教師的に参考にする部分と、良心に従って真実と対峙し、頑張る人達の様子も心強く参考になりました。
こういう映画が果たして今の日本で作れるのだろうかと思いました。特に昨今のSNSを利用した無法地帯のような現状を見て。
『田中角栄 100の言葉 -日本人に贈る人生と仕事の心得-/別冊宝島編集部・編(宝島社)』を古本で見つけ、読んでみました。
2015年2月に初版発行していて、私が入手した本では、同年7月で既に第9刷発行となっています。とても人気があったことがうかがえます。
私も今になると、角栄氏の発言や行動はとても気になります。
特に今の政治家の様子を見ていると、それと比べてみたいと思うのです。
100ある言葉から私も気になったものをいくつか挙げてみたいと思います。
〇人の悪口は言わないほうがいい。言いたければ便所で一人で言え。自分が悪口を言われたときは気にするな。
・・今の人、政治家は特に、こんな人はほとんどいないと思います。
〇人間誰しも、若いときはみんな偉くなりたいと思うものだ。しかし、そう簡単じゃない。経験も、知識も、素養もなくてしゃべってばかりいるのは誰も相手にしなくなる。
・・政治家にも多いSNSを駆使して“ネット大道芸”よろしくペラペラとしゃべっている薄っぺらい輩を思い出しました。
〇どんな発言をすればマスコミに気に入られるか。大きく書かれるかと考える人間がいる。こういうのが一番悪い。政治家としても大成しない。
・・今、こんなのばっかり。
〇いい政治というのは国民生活の片隅にあるものだ。目立たずつつましく国民の後ろに控えている。吹きすぎて行く風---政治はそれで良い。
・・国民はささやかな幸せを求めているだけなのに、大きなことを言って前面に立つ目立ちたがり屋の政治家のあの顔、この顔が浮かびます。
〇人の悪口を言ったり、自分が過去に犯した過ちを反省せず自分がすべて正しいとする考え方は国のなかでも外でも通用しない。
・・私もそう思っていたが、なんの反省もせず、自分が正しいと言い張り、再び表舞台に上ってきたあの男のことを言っているみたいだと思いました。
〇戦争を知っている世代が社会の中核にある間はいいが、戦争を知らない世代ばかりになると日本は怖いことになる。
・・今、まさになろうとしています。
以上、まだまだ気になる言葉ばかりでした。
この本の続編のような本も同時に手に入れているので、また読みましたら感想を書きたいと思います。
Jazz Jazz Album を CDで聞いていく The Beatles The Beatles 研究室・復刻版 お怒りモード憑依 お酒 こんな出来事あんな出来事 しみじみモード、私の気持ち はっPのアナログ探訪 ウェブログ・ココログ関連 オトナのグッズ クルマ グルメ・クッキング スポーツ ニュース パソコン・インターネット ファッション・アクセサリ ペット 不思議&恐怖体験 些細な気になること 仕事で生き生き 住まい・インテリア 俳句を詠んでみる 南先生の玉手箱 妄想対談 学問・資格 宝塚 家族・親子 建物・風景 心と体 恋愛 想い出交錯 携帯・デジカメ 文化・芸術 旅行・地域 日々発見 日記・コラム・つぶやき 映画・テレビ 書籍・雑誌 書籍・雑誌その2 様々な交流 社会の出来事 経済・政治・国際 自然・四季 芸能・アイドル 行ってみた、喰ってみた、飲んでみた、酔ってみた 街で発見 言葉 趣味 過去にあった人、出来事 音楽
最近のコメント